山下 正雄(ラジオ牧師)
メッセージ:意外なヒーロー
【高知放送】
【南海放送】
おはようございます。ラジオ牧師の山下正雄です。
ヒーローものの映画やドラマでは、誰がヒーローかは一目瞭然です。力があって二枚目で、カリスマ性をにおわせる発言や行動が、その人を引き立てています。私たちは、力があり、人々を圧倒するような人物を、英雄として考えがちです。しかし、今日お話しするのは、それとはまったく違うタイプのヒーローの話です。
聖書には、「イエス・キリスト」という人物が登場します。今から二千年ほど前、エルサレムという都に入られるときに、多くの人々から、王のように迎えられました。しかし、その姿は、私たちが想像する偉大な王の姿とは大きく異なっていました。
普通、王や英雄が町に入るときには、立派な馬に乗り、兵士を従えてくるものです。しかし、イエス・キリストは、そうではありませんでした。キリストが乗っていたのは、一頭のロバ。しかも、まだ誰も乗ったことのない若いロバでした。ロバというのは、戦いに向かう王が乗る動物ではありません。むしろ、日常生活で荷物を運ぶための、地味で平凡な動物です。
では、どうしてイエス・キリストは、そんなロバに乗って、エルサレムに入ったのでしょうか。それは、「力で人を従わせる王」ではなく、「仕える王」だったからです。イエス・キリストは、人々を権力で押さえつけるのではなく、彼らの苦しみを共に担い、希望を与えるためにやって来ました。
実際、このときイエスを迎えた人々は、彼に大きな期待を寄せていました。彼こそが、ローマ帝国の支配から、自分たちを解放してくれる王になるのではないかと考えていたのです。彼らは、「ホサナ!」と叫びながら、道に自分の上着や木の枝を敷いて歓迎しました。
ところが、イエスが目指していたのは、人々が期待していた圧政からの解放ではなく、人間そのものを苦しめている、根本的な問題からの解放でした。だからこそ、イエスは、武力を持たず、ロバに乗って、都エルサレムに入られたのです。
現代社会でも、「成功とは何か」、「本当に偉大な人とは何か」を考えることがあります。多くの人は、権力や富、名声を持つ人こそが成功者だと思うかもしれません。しかし、イエスが示されたのは、「人に仕えることこそが、本当の意味で偉大なことだ」という考え方でした。
実際、私たちの周りにも、「自分の利益のために人を動かす人」と、「人のために自分を捧げる人」がいます。あなたなら、どちらのリーダーに信頼を寄せたいと思うでしょうか。
イエス・キリストは、「あなたがたの中でいちばん偉い人は、いちばん若い者のようになり、上に立つ人は、仕える者のようになりなさい。」(ルカ22:26)と教えられました。これは、私たちの日常生活にも当てはまる言葉です。職場でも家庭でも、誰かのために自分を犠牲にすることこそが、本当の意味でリーダーシップなのです。
イエスの姿を見るとき、私たちは問いかけられます。「あなたは、どんな生き方を選ぼうとしているのか」と。力や権力を求める道もあります。しかし、それだけでは、人の心は動きません。本当に人の心を変え、世界を変えるのは、愛と謙遜の姿なのかもしれません。イエス・キリストは、その生涯を通して、そのような生き方を貫かれました。
そのイエス・キリストは、最後の晩餐の席上で、弟子たちにこうおっしゃいました。「あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。互いに愛し合うならば、それによってあなたがたがわたしの弟子であることを、皆が知るようになる。」(ヨハネ13:34-35)
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