唐見敏徳（忠海教会牧師）

メッセージ： 民数記〜荒れ野と楽園

【高知放送】
　　　　　

【南海放送】
　　　　　

　「キリストへの時間」をお聞きの皆さん、おはようございます。忠海教会の唐見です。
　今月は、創世記から申命記までのモーセ五書に関するお話しをしています。今日は、「民数記」からお話しします。

　「民数記」というタイトルは、他のモーセ五書の書物と同様に、ギリシア語聖書七十人訳以来の伝統に従ったものです。本書の前半と後半に2回実施された、イスラエルの人口調査から名付けられています。1回目の調査は、エジプトを出た翌年、シナイの荒れ野にいたときに行われました。2回目の調査は、エジプトを出て40年目、ヨルダン川の対岸にあるモアブの平野で行われました。これらの調査は、兵役を前提にした20歳以上の男子を対象としたもので、レビ人は、これとは別に集計されています。

　民数記は、モーセ五書の中で、控えめに言って地味な印象を持つ書物でしょう。しかし、その内容について考えると、意外にもいろいろなドラマが展開されています。たとえば、コラの反逆（民数記16章参照）、メリバの水（民数記20章参照）、青銅の蛇（民数記21章参照）、モアブの王バラクとバラムのエピソード（民数記22-24章参照）、ピネハスの熱情（民数記25章参照）などです。これらの記事は、聖書の他の書物で引用されている個所でもあります。また、物語の途中に挿入されている律法の規定も、バラエティに富んでいます。

　ちなみに、ヘブライ語聖書で本書は、「荒れ野にて」と呼ばれます。単に、ヘブライ語本文の言葉を抜き出したものですが、結果的に、本書の内容全体をよく表しています。なぜなら、民数記は、イスラエルの荒れ野での40年の放浪生活について、そのいきさつも含めて、最も多くを記録している書物だからです。

　荒れ野の40年間において、実にいろいろなことが起きたわけですが、本書のタイトルの由来である2回の人口調査は、それを象徴的に示しています。部族ごとの細かい数字は省略して、全体の調査結果だけを記します。旅の始まりに行われた1回目の調査では、イスラエルの総人口は603,550人、そして、旅の終わりの2回目では601,730人となっています。両者を比較すると、1,820人の減少、割合でいえば0.3パーセントの減少となっています。数字だけでいえば、大きな変化は見られません。ちなみに、「キリストへの時間」が放送されている四国四県の人口で比較すると、高知県の人口の推定値が約67万（2023年2月現在）で、最も近い数字です。荒野でのイスラエルの人口は、高知県の人口より約7万人少ないということになります。

　しかし、調査結果の数字ではなく、そこに記載されている名前を見れば、両者は全く異なることがわかります。二つの調査結果に名前が記されているのは、ヨシュアとカレブの2名だけです。つまり、二人を除くすべての人が、荒野の旅の最初と最後で入れ替わっている、つまり亡くなっているということです。

　なぜ40年もの間、荒れ野での放浪生活を余儀なくされたのかについては、13、14章に記されています。イスラエルの人々は、エジプトを脱出した次の年に、約束の地の手前まで来ていました。しかし、実際に約束の地に入るのは、それから39年後のことです。その理由は、一言で言えば、イスラエルの不信仰です。そのとき送り出したカナン偵察の日数40日に応じて40年の間、イスラエルの人々は、荒れ野を放浪しなければならなくなりました。そして、その世代の人々は、約束の地に入ることはできないとされました。主への信仰を示した二人、カレブとヨシュアを除いて。

　約束の地を前にしたイスラエルの人々は、荒れ野の40年を振り返っています（民数記33章参照）。そこに記されている旅路を辿ると、改めて、神の恵みの偉大さを思い知らされます。もともと、イスラエルの人々がモーセに率いられてエジプトを出発したのは、彼らの助けを求める声を、主が聞きあげてくださったからでした。しかし、彼らはその恵みを忘れて、エジプトにいた方がましだったとさえいうのです。主なる神は、そのような反抗的なイスラエルの人々にマナを降らせ、水を湧きあがらせ、守り続けられたのです。

　不平不満を訴え続けた荒れ野の40年ですが、ある意味では、イスラエルの人々にとって最も幸せな時だったともいえます。なぜなら、荒れ野の40年の間、主なる神が彼らと共におられたからです。主なる神は、昼は雲の柱として、夜は炎の柱として、常にイスラエルの民を導き続けられました。「神がわたしたちと共にいてくださる」、これこそ、最大の祝福なのだ、と聖書は教えてくれます。そして、わたしたちもまた、同じ祝福をいただくことができるのです。「インマヌエル」と呼ばれる主イエス・キリストを信じる信仰によって。