キリストへの時間 2023年4月2日(日)放送  キリストへの時間宛のメールはこちらのフォームから送信ください

唐見敏徳(忠海教会牧師)

唐見敏徳(忠海教会牧師)

メッセージ: 創世記〜はじまりの物語

【高知放送】
     

【南海放送】
     

 「キリストへの時間」をお聞きの皆さん、おはようございます。忠海教会の唐見です。
 旧約聖書は、全部で39の書物から構成されています。そのうち、最初の5つの書物、すなわち創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記は、「モーセ五書」「律法」などと呼ばれ、特別な位置を占めています。今月は、5回お話しする機会がありますので、これら5つの書物をひとつずつ、順番に取り上げてお話しします。一回目は、創世記です。

 「創世記」という名称は、ギリシア語聖書七十人訳にさかのぼります。この言葉は、たとえば2章4節、「これが天地創造の由来である。」(創世記2:4)に使用されています。また、ヘブライ語聖書では、単純に冒頭の言葉をとって、「はじめに」と呼ばれます。モーセ五書最初の書物「創世記」は、すべての「はじまり」についての物語です。

 創世記が語る「はじまり」は、大きく2つに分けることができます。ひとつは、天地創造に始まる原初の世界のはじまりについて、もうひとつは、主なる神によって召し出された人々のはじまりについてです。前者については、1章から11章までです。主なる神が、天と地と海と、そこに存在するすべてを創造されたことが語られます。それらはすべて、神の御心にかなう善きものであり、とりわけ人間は、神のかたちを持つものとして、特別な使命が与えられている存在として造られました。

 しかし、残念なことに、神によって善きものとして創造された世界は、長くは続きませんでした。最初の人アダムとエバの罪によって全てが変わってしまった、と創世記は語ります。決して食べてはならない、食べると必ず死んでしまう、と主から禁じられていた善悪の知識の木の実を、彼らは食べてしまいます。

 この出来事によって、この世界に罪と腐敗が生じただけではなく、アダムとエバ以降のすべての人に、それらが伝播しているのだ、と聖書は教えます。二人は楽園から追放され、その後もカインとアベル、バベルの塔の記事など、人間の罪を示すエピソードが挿入されます。しかし、地上に悪が増していく中にあっても、義しい人ノアを救おうとされる神の愛が示されます。

 もうひとつの「はじまり」については、11章の終わりから描かれます。アブラハム、イサク、ヤコブ、そしてヨセフと続く、神の民イスラエルのはじまりが描かれます。「信仰の父」とも呼ばれるアブラハムですが、彼はもともとイスラエル出身ではありませんでした。まだアブラムという名であったとき、「あなたは生まれ故郷 父の家を離れて わたしが示す地に行きなさい。」(創世記12:1)という主の言葉に従って、行き先も知らないまま旅立つのです。旅の途中、アブラハムは、幾度となく試練に直面します。しかし、主なる神は、アブラハムとその子孫を顧み、その旅路をずっと守り続けられるのです。

 アブラハム以降、イサク、ヤコブ、そしてヨセフと、神の民の歩みは続いていきます。彼らの生涯もまた、決して平たんなものではありませんでした。家族また兄弟の間の激しい争いもありましたが、最終的に和解へと導かれていきます。創世記の物語は、兄弟の妬みによって、ヨセフが売られていった先のエジプトで、兄弟が互いに許しあい、人生を終えるところで閉じられます。

 創世記が語る「はじまり」は、単なる太古の神話的な出来事の記録ではありません。現在につながっているリアルな物語として、わたしたちの前に提示されています。新約聖書マタイによる福音書の冒頭には、アブラハムから主イエス・キリストに続く系図が記されています。また、ルカによる福音書には、主イエス・キリストからアダムに続く系図が収められています。

 これらを、創世記でのアブラハムの信仰の物語、またアダムとエバの罪と堕落の物語と重ねて思いめぐらすとき、わたしたちもまた、主イエス・キリストを信じる信仰を通して、神の救いにあずかるものとして生かされている、そのことを感じることができます。

 また、創世記は、未来へと続く物語、さらにいえば、終わりの時に完成する物語の「はじまり」でもあります。すぐれたミステリー小説は、その結末ですべての伏線を回収し、読者を驚かせます。創世記の物語は、終わりの時にすべてが明らかになる物語として読むことができます。

 聖書の最後の書物、ヨハネの黙示録では、新しい天と新しい地の創造のイメージが記されます。そこでは、アダムとエバの罪によって堕落した世界が、本来の善きものとして再創造されることが語られます。創世記は、時代を越えて、常に開かれた物語として、わたしたちの前に置かれている書物なのです。



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