キリストへの時間 2022年11月13日(日)放送

山下正雄(ラジオ牧師)

山下正雄(ラジオ牧師)

メッセージ: 悪より救い出したまえ

【高知放送】
     

【南海放送】
     

 おはようございます。ラジオ牧師の山下正雄です。
 新約聖書に収められたパウロが書いた手紙の中に、「立っていると思う者は、倒れないように気をつけるがよい」(1コリント10:12)という言葉があります。自分は大丈夫、しっかり立っている、という思い込みほど、危ういものはありません。

 何かの記事で読んだことがありますが、人間には、「正常性バイアス」という心理機能が備わっているそうです。「大丈夫」「大したことない」「正常の範囲内」と思おうとする心理です。この機能のおかげで、ちょっとしたことでいちいち動揺したり、慌てふためいたりしないで、落ち着いて生きることができる、という良い面があります。

 しかし、大規模な災害で危険が身に迫っているときに、この「正常性バイアス」が、過剰に働いたらどうなるでしょう。本当は、一刻も早く危険から離れ、助けを求めなければならないのに、本人は、自分だけは大丈夫と思い込んでしまい、それこそ、取り返しのつかない大変なことになってしまいます。

 主イエス・キリストが弟子たちに教えてくださった祈りに、「主の祈り」と呼ばれる短い祈りがあります。その祈りの言葉の中に、「我らを試みに遭わせず、悪より救い出したまえ」という言葉があります。この祈りの言葉は、私たちの心の中にある、信仰的な「正常性バイアス」に挑んでいるように感じられます。というのは、この祈りの言葉の背後には、信仰者たちを揺るがそうとする悪しき者たちの存在が、当然の前提としてあるからです。信じる者たちを誘惑し、神から離れさせようとする力です。その悪の力を正しく認識し、決して自分は大丈夫と思いこまず、自分の力で何とかしようとはせずに、神に助けを求める祈りだからです。

 確かに聖書は、一方では、神の子たちの圧倒的な勝利を語っています。パウロはその手紙の中で、「わたしたちは、わたしたちを愛してくださる方によって輝かしい勝利を収めています」(ローマ8:37)とさえ断言しています。しかし、それにもかかわらず、パウロは、「立っていると思う者は、倒れないように気をつけるがよい」と警告し、パウロ自身について、「他の人々に宣教しておきながら、自分の方が失格者になってしまわないため」(1コリント9:27)に、特別な心遣いをする人でした。神の恵みの圧倒的な勝利を信じながらも、決して、敵対する勢力の力を侮ったりはしません。この感覚こそ、信仰者には大切です。

 信仰者は、この地上で、生涯を通して、信仰の戦いに召されています。気がつけば、信仰的な危険が身に迫るときさえあるでしょう。大丈夫などと思い込むのではなく、いち早く、神の助けにすがり、神に自分を明け渡すことが大切です。

 そもそも、この主の祈りの中では、「悪より救い出してください」と祈る前に、「試みに遭わせないでください」と祈るように勧められています。試練が信仰者を強める、というのも真理です。しかし、試練は同時に、誘惑ともなりえます。実際、新約聖書のギリシア語では、「試練」も「誘惑」も、同じ言葉です。

 試練に耐えきれず、神から離れるとき、それはまさに、試練ではなく誘惑です。試練を耐え抜いて立派な信仰者になるなどと、不用意に考えてはいけません。誘惑に遭わせないようにと願うこと、決して大丈夫ではない自分に気が付くこと、そのことが、堅実な信仰を育てていくのです。



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