聖書を開こう 2021年5月27日(木)放送     聖書を開こう宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄(ラジオ牧師)

山下 正雄(ラジオ牧師)

メッセージ:  この時のために(エステル4:1-17)



 ご機嫌いかがですか。日本キリスト改革派教会がお送りする「聖書を開こう」の時間です。今週もご一緒に聖書のみことばを味わいましょう。この時間は、日本キリスト改革派教会牧師の山下正雄が担当いたします。どうぞよろしくお願いします。

 アイドルグループの欅坂46(2020年10月「櫻坂46」に改名)の歌に『サイレントマジョリティ』という曲があります。その歌詞に「どこかの国の大統領が 言っていた(曲解して)、声を上げない者たちは 賛成していると…」というくだりが出てきます。

 サイレント・マジョリティという言葉は、ベトナム戦争時代のニクソン大統領が、反対の声を上げない大多数の大衆は、自分の意見に賛成しているという意味で使った言葉だと言われています。もちろん、沈黙にはいろいろの意味が込められているはずですが、為政者には都合よく受け取られてしまうものです。

 きょう取り上げる個所には、王妃エステルに対して声を上げるように迫るモルデカイの話が登場します。その言葉に促されて決断するエステルの姿は、『エステル記』の中で最も感動的な場面の一つです。

 それでは早速きょうの聖書の個所をお読みしましょう。きょうの聖書の個所は旧約聖書 エステル記 4章1節〜17節までです。新共同訳聖書でお読みいたします。

 モルデカイは事の一部始終を知ると、衣服を裂き、粗布をまとって灰をかぶり、都の中に出て行き、苦悩に満ちた叫び声をあげた。更に彼は王宮の門の前まで来たが、粗布をまとって門に入ることは禁じられていた。勅書が届いた所では、どの州でもユダヤ人の間に大きな嘆きが起こった。多くの者が粗布をまとい、灰の中に座って断食し、涙を流し、悲嘆にくれた。女官と宦官が来て、このことを王妃エステルに告げたので、彼女は非常に驚き、粗布を脱がせようとしてモルデカイに衣服を届けた。しかし、モルデカイはそれを受け取ろうとしなかった。そこでエステルはハタクを呼んでモルデカイのもとに遣わし、何事があったのか、なぜこのようなことをするのかを知ろうとした。ハタクは王に仕える宦官で、王妃のもとに遣わされて彼女に仕えていた。ハタクは王宮の門の前の広場にいるモルデカイのもとに行った。モルデカイは事の一部始終、すなわちユダヤ人を絶滅して銀貨を国庫に払い込む、とハマンが言ったことについて詳しく語った。彼はスサで公示されたユダヤ人絶滅の触れ書きの写しを託し、これをエステルに見せて説明するように頼んだ。同時に、彼女自身が王のもとに行って、自分の民族のために寛大な処置を求め、嘆願するように伝言させた。ハタクは戻ってモルデカイの言葉をエステルに伝えた。エステルはまたモルデカイへの返事をハタクにゆだねた。「この国の役人と国民のだれもがよく知っているとおり、王宮の内庭におられる王に、召し出されずに近づく者は、男であれ女であれ死刑に処せられる、と法律の1条に定められております。ただ、王が金の笏を差し伸べられる場合にのみ、その者は死を免れます。30日このかた私にはお召しがなく、王のもとには参っておりません。」エステルの返事がモルデカイに伝えられると、モルデカイは再びエステルに言い送った。「他のユダヤ人はどうであれ、自分は王宮にいて無事だと考えてはいけない。この時にあたってあなたが口を閉ざしているなら、ユダヤ人の解放と救済は他のところから起こり、あなた自身と父の家は滅ぼされるにちがいない。この時のためにこそ、あなたは王妃の位にまで達したのではないか。」エステルはモルデカイに返事を送った。「早速、スサにいるすべてのユダヤ人を集め、私のために三日三晩断食し、飲食を一切断ってください。私も女官たちと共に、同じように断食いたします。このようにしてから、定めに反することではありますが、私は王のもとに参ります。このために死ななければならないのでしたら、死ぬ覚悟でおります。」そこでモルデカイは立ち去り、すべてエステルに頼まれたとおりにした。

 前回学んだ個所では、ペルシア帝国内に住むユダヤ人撲滅の勅書が発布されたことを学びました。それを知ったユダヤ人たちの間に衝撃が走ったことは言うまでもありません。とりわけ、事の一部始終を知ったモルデカイにとっては、あまりにもひどい仕打ちでした。

 というのも、そもそものきっかけは、モルデカイ自身にあったからです。クセルクセス王が重んじていたハマンに対してひざまずかなかったことが、こんなにも大きな事態に発展するとは、思ってもいなかったことでしょう。

 モルデカイは衣服を裂き、粗布をまとって灰をかぶり、都の中に出て行き、苦悩に満ちた叫び声をあげます。衣服を裂くことも、粗布をまとうことも、また灰をかぶることも、神の御前に深い悲しみを表し、神に訴えるときに行う宗教的な態度です。

 モルデカイはそのままの恰好で王宮に向かいます。粗布をまとって王宮の門を入ることは禁じられていたため、門のところで足止めを食らいます。もちろん、モルデカイはそうなることを予想していたでしょう。そして、王宮の門で悲嘆の声を上げ続ければ、その様子は王宮の中にまで知れ渡ることは、織り込み済みであったはずです。

 モルデカイにとって今最も頼れる人は、王妃となったエステルしかいません。しかし、育ての親とはいえ、王妃となったエステルに気安く近づくことなどできません。まして自分とエステルとの関係や、エステルがユダヤ人であることなど、内密のことでしたので、うかつな行動は取れません。モルデカイなりに考えあぐねた方法です。

 案の定、モルデカイの噂は、女官たちの口を通してエステルの耳に入ります。ここから先、人を介して、モルデカイとエステルはやり取りを始めます。

 エステルはモルデカイを通して、初めて宮廷の外で何が起こっているのかを知ります。しかも、その事のために自分が立ち上がらなければ、自分が属する民族に最大の悲劇が起こることは十分に理解できました。

 しかし、王妃とはいえ、王の側から召しだされない限り、王のもとに行くことは、死を覚悟するほどの決断を迫られることでした。

 躊躇するエステルにモルデカイは迫ります。

 「他のユダヤ人はどうあれ、自分は王宮にいて無事だと考えてはいけない。この時にあたってあなたが口を閉ざしているなら、ユダヤ人の解放と救済は他のところから起こり、あなた自身と父の家は滅ぼされるにちがいない。この時のためにこそ、あなたは王妃の位にまで達したのではないか。」

 この言葉にエステルは出来得る限りの信仰をもって応えようとします。エステルは自分の知恵や力でこの場を突き進もうとはしません、三日三晩断食することをユダヤ人にも自分自身にも求めます。断食は神への真剣な祈りを意味します。祈りに押し出されて行動を取ろうとします。

 そのうえで、エステルはモルデカイに告げます。

 「定めに反することではありますが、私は王のもとに参ります。このために死ななければならないのでしたら、死ぬ覚悟でおります。」

 エステルは自分のことだけを考えれば、王妃として安泰な日々を送る方がずっと楽であったはずです。しかし、このまま何も行動を取らなければ、一生良心の呵責に耐えられない日々を送ることになるでしょう。もちろん、エステルが行動に立ち上がったからと言って、王の怒りに触れれば、何の役にも立ちません。それくらい自分が無力であることは、誰よりも自分がよく知っていたはずです。

 しかし、それでも一歩を踏み出そうとしたのは、モルデカイの言葉を信仰をもって受け取ったからにほかなりません。自分が王妃の座にまで昇りつめたのは、決して偶然のことではなく、神がこの時のために定めたことなのだ、と。エステルにはこの確信があったからこそ、前に進むことができたのです。もちろん、この確信が揺るがないために、エステルは多くの人の祈りを謙虚に求めました。

 人生の中で、これほど大きな信仰的な決断を迫られることは、私たちにはそう多くはないかもしれません。しかし、どんなに小さな信仰的な決断であったとしても、神の摂理を信じ、祈りに支えられながら、前に進むことこそ、大切な生き方です。

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