ただ一つの慰め『ハイデルベルク信仰問答』の学び 問22−問23

ハイデルベルクの街

吉田 隆(仙台教会牧師)


「まことの信仰」を通して、キリストと結び合わされることによって人は救われる、と学びました。それでは、私たちはいったい何を信じればよいのでしょう。今回は、「まことの信仰」の中身について学びます。

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 『聖書』はこの国でもベストセラーの一つです。そればかりかキリスト教に対する関心も高く、町のカルチャーセンターでも聖書やキリスト教に関する講座には人が集まります。ところが、キリスト教会が教えていることや教会の書物となると敬遠されがちなのはなぜでしょう。得体の知れない「教会」に対するアレルギーなのかも知れません。

 しかし、よく考えてみると、おかしな話です。なぜなら、聖書が書かれたのも今日に至るまで保存され続けてきたのも、教会があってこそだったからです。聖書の根幹は、神が成し遂げられた歴史的な出来事と御自分の民に対してお語りになった言葉です。その神のみを真の神とし、その言葉のみを真に人を生かす命の言葉と信じた人々によって聖書は書き記されました。

 さらに、コピーやコンピューターのない時代、文書は一文字一文字手で書かねば残りませんでした。ですから、およそ時代を超えて残っている書物は、残す価値があるからこそ残されたのであって、そうでないものは消え去って行きました。まして聖書は、数々の迫害の中で、命がけで守られ残されてきた書物です。なぜそこまでして聖書は残されたのか、教会が命をかけて信じまた守ろうとしたのは何だったのか、好むと好まざるとに関わらず、私たちは耳を傾けねばならないでしょう。

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 ですから、たとい聖書を自分で読んで自分なりの信仰を持ったとしても、それで「キリスト者」になるわけでは必ずしもありません。なぜなら、キリスト者とは、主イエス・キリストと結ばれ、その御言葉に生きてきた共同体(=キリスト教会)に連なることでもあるからです。そこには、主イエス・キリストがお語りになり使徒たちが伝えた教え、キリストの民たちが連綿と受け継いで来た信仰があります。その信仰を抜きにして、自己流で聖書を読んでも正しく理解することはできません(2ペトロ1:20-21)。少なくとも、聖書本来の目的にかなった読み方はできないでしょう。キリスト者には、ですから、自己流の信仰ではなく「信じるべきこと」があるのです。

 それでは、何を信じればよいのでしょう。
 それは「福音においてわたしたちに約束されていることすべて」だと、信仰問答は教えます。神は無駄なことをお語りにはなりませんから、私たち人間にとって無くてはならない言葉すべてが聖書に残されているはずです。そして、その中心は、私たち罪人を救おうとなさる神の福音の約束です(問19参照)。私たちは、その約束のすべてを一言も地に落とすことなく受け止めねばなりません。
 しかし、「すべて」ということであれば、何も言っていないのと同じかもしれません。

プロテスタントであれローマ・カトリックであれ、
  およそキリスト教会であれば普遍的に信じ受け入れられてきた信仰の箇条…。

 確かに聖書はそのすべてを受け入れる必要がありますが、同時に教会はそれを簡潔に要約して教えてまいりました。初心者でも暗記できるほどの長さで、福音の要諦を網羅しようとしてきたのです。その最も有名なものが、問23の答えに記されている『使徒信条』として知られている文章です。
 この文章は「わたしたちの公同の疑いなきキリスト教信仰箇条」と言われます。「公同の」とは普遍的(カトリック)ということ。つまり、プロテスタントであれローマ・カトリックであれ、およそキリスト教会であれば普遍的に信じ受け入れられてきた信仰の箇条(信条)ということです。

 同様の文章には、他にもニケア信条やアタナシウス信条と呼ばれるものがあります(カルケドン信条を加えることもあります)。これらはキリスト教会が飛躍的に拡大した古代において、教会一致のシンボルとして作られた告白文です。

 わけても使徒信条(Apostles’ Creed)は、“使徒たちの信条”と言われるように、12使徒が全世界に福音を伝えに行く際に、共通の福音を語ろうとしてまとめたものと言われます。もちろんこれは伝説ですが、内容的には主キリストの使徒たちによって記された福音の約束全体の根幹をなす事柄を網羅しており、古代教会における洗礼式文が元になっていると考えられています。まさに「キリスト者」になろうとする者が、この「信じるべきこと」を告白して生み出されたというわけです。

 これからしばらく、この信条の言葉に導かれながら、聖書の福音の真髄を御一緒に学んでまいりましょう。

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