声の出し方を教えてもらわないと人間は声が出せない、というわけではありません。「オギャー!」と生まれたときの産声からもうあなたの「オンリーワンvoice」が与えられています。
あなたは自分の声を録音して聴いてみたことがありますか?私は番組を担当し始めた頃、スタジオでたった一人マイクに向かって出てくる声は、声帯が緊張して絞めつけられるようなトーンの高い声になって、かん高く伝わりにくい声になってしまっていたような気がします。
その後、スタジオの雰囲気にも慣れて、ミルクコーヒーをゴクンと飲んで、リラックスして、声が出せるようになってきて、今はずいぶん楽しくなりました。誰でも初めての場所や出会いには緊張感が漂いますよね。ゲストの方もテーマ曲が流れ、本番が始まってもしきりにうなずいてくださるだけで声が出てこないということもありました。
私の本箱にある「ほめことばの事典」(白水社)を開くと「ア行」から始まりますから最初に「愛」。1コリント13章「愛は忍耐強い、愛は情け深い」が取り上げられています。とても一人では読むことができないほどの作品からの「ほめことば」を榛谷泰明(はんがいやすあき)先生が抜粋してくださっています。
その中で「声」の項目に度肝を抜かれるような言葉があります。読書量の少ない私は読みながら神様に創造され、言葉で生きる人間の豊かさを思いました。それでは早速幾つかをご紹介します。
☆「薔薇園をくぐりぬけて来たような声、蝶々のはばたきにも似た声、木洩れ日のようなキラキラした声、外国雑誌のあの快い重さのような声、ブルーのペンダントがただよわせる青い闇のような声、(中略)ああ、あの人の声はたとえようもなく美しい、ダイヤモンドのブリリアンカットのような声」(永田明正「美しい声」僕のこころ)。
☆また、「ジョン・レノンの話し声について」というのもありました。「その声が伝えているものの幅広さに惹かれるのだと思う。それは力強い。しかし残酷で荒々しい声だ。その声で自分がけなされたらたまらないと思える声だ。生意気な、かつものすごく憂鬱で、いろんなことを見聞きしてきた声、自己懐疑と、自信とユーモアに満ちた声、表情豊かな、チャーミングで官能的な声。」(ハニフ・クレイン・柴田元幸訳)。
☆「あなたのすべてが好きです。あなたの声の響きさえ好きです。あなたにとって、自分の声の響きとはなんでしょう。ただの声です。でもわたしにとっては、命をかきたてるものなのです。」(パスカル・キニャール「舌の先まで出かかった名前」高橋啓訳)
奥まった声の人は控えめな奥ゆかしい感じですし、持ち前の響く大声の人は舞台で活躍しているのかもしれません。声が作られるところは咽頭といいますが、私はそこにおさまっているふるえる声帯を見てみたいと思ったりします。以前、仕事のためにわざわざ声帯に傷をつけ役柄らしい声にしたというお話を読んだこともありました。「命をかきたてられる声」ってどんな声なのでしょうね?
さて、Voiceチェックシートなどよくトレーニングの本に出ています。あなたの声は高い? 低い? 歯切れが良い? 明るい? それとも暗い? 穏やか? 攻撃的?
私は進路の選択で悩んだ時、右と左に+と−をいろいろ書いて決断したことがありました。「voiceノート」にいろいろ書き連ねるとあなたの現状が見えてくるかもしれません。ノートにご質問やご感想も書いてこのコーナーにもぜひ送ってくださいね。 くまだなみこ