熊田なみ子のほほえみトーク 2016年10月25日(火)放送

熊田 なみ子(スタッフ)

熊田 なみ子(スタッフ)

小さな朗読会206「自分の民を救ったエステル王妃」
(「母と子の聖書旧約下」108章)

 王がほかのどの大臣よりも重んじた、ハマンという人がいました。ハマンは、他の大臣たちには与えられなかった。たくさんの特権をもっていました。
 ハマンが王の宮殿から外にでると、家来や大臣たちはみな、ひざまずいてハマンに敬礼しなければなりません。ハマンはこれら敬礼している人たちのあいだを、威張って歩きました。彼は自分がいちばん偉い人間だと思っていたのです。
 モルデカイだけが、ハマンのとおったとき、敬礼しませんでした。王の門にいた家来たちはこのユダヤ人に、「あなたはどうして王の命令にそむいて、ハマンに敬礼をしないのか」といいました。そして、彼がどうしても敬礼しないのを見て、ハマンにいいつけました。
 ハマンは、もうれつにおこりました。そして、モルデカイをこらしめる方法を考えはじめました。
 ハマンは、王のひいきだったので、モルデカイを処刑にすることはすぐにできました。しかし。モルデカイを殺すだけでは不満足だと思いました。この人ひとりに手をかけてもつまらないと思いました。王国のなかのユダヤ人全部を殺さなければ満足できません。
 しかし、こればかりは、王の許可なしに実行できません。王国にはユダヤ人が何万何千といました。そして毎年、たくさんの税を王に払っています。もしユダヤ人がみな殺されれば、たくさんのお金が王のところにはいらなくなります。
 また、ユダヤ人全部の暗殺が王の気にいらなければ、反対にこんなことを願いでたハマンの首がとぶことにならないとも限りません。これらの王は、あるときは、一人の人を大へんちょう愛し、次の瞬間、その首を切らせることがあります。
 すべての異教徒と同じように、ハマンは大へん迷信ぶかい人でした。
 ハマンは、まず吉日をくじで引いてみるまで、王にこの願いごとをしようとしませんでした。みんなが幸運やしるし、夢を信じていたこの国には、くじを投げることを仕事にしている人たちがいました。ハマンはこの人たちに、ユダヤ人を殺す許可を王にもらいにいってよい吉日を見つけるまで、毎日、くじを投げさせました。
 ハマンによって、毎日が凶とでました。そこでまる1年間、くじがでるかどうか、ハマンは占い師のところにかよいました。
 とうとう、1年すぎてから、吉日がでました。
 ハマンが王のところにいったとき、彼は、ユダヤ人のモルデカイが自分のまえにひざまずいていて敬礼しないので、怒っているとはいいませんでした。こんな理由で、アハシュエロス王が自分に何千何万もの人を殺す許可をくれないことを知っていました。
 彼はその代わりに、「王よ、とこしえに生きながらえますように。お国の各州にいる諸々の民のうちに、散らされて別れ別れになっている一つの民がいます。その律法は他のすべての民のものと異なり、また彼らは王の律法を守りません。それゆえ彼らを許しておくことは、王のためになりません。もし王がよしとされるならば、彼らを滅ぼせとみことのりをお書きください。そうすれば、わたしは王が税で損をしないように、王の金庫に銀1万タラントを入れましょう。」
 ハマンは大へんな金持ちでした、そのころの銀1万タラントといえば、今日の50億円に相当します。こうして、ハマンはたいへんな富をもっていましたが、アハシュエロス王のほうがもっともっていました。各領地から、たくさんの税金がはいってくるので、彼は、現在のどこの王よりも大金持ちでした。そこで彼はハマンに「その銀はあなたに与える。その民もまたあなたに与えるから、よいと思うようにしなさい」といいました。
 王は、ハマンに印のついている王の指輪をわたしました。ハマンは、好きなことを書いてそれに王の指輪の印をおすことができました。王の印がおされれば、それは、変えることのできない、メデアとペルシャの法律になってしまいます。
 ハマンは、王の書記をみな集めました。そして領地を治めているすべての総督に次のように書くよう、いいつけました。

 王のみことのり
 12月の月の13日にすべてのユダヤ人を、若い者、老いた者、子供女の別なく、ことごとく殺せ。

 足の早いらくだに乗った急使が、この通知を、王の領土のすみずみまで伝えるために、各方面にでていきました。
 ハマンは王と酒をかわすためにすわりました。宮殿の外では、スサの町のなげきはたいへんでした。ユダヤ人は、この恐ろしい運命から、何とかして救われるでしょうか。
 王の通知がとどいたところでは、なげき、悲しみがおこりました。このおそろしい通知は、1年の終わりに、世界中のユダヤ人が殺されてしまうことを意味します。神殿をようやく建て終えたばかりのユダヤにいるユダヤ人も、殺されることになります。
 ユダヤ人が、民族をなして以来、こんな危険にさらされたのは、初めてです。もしハマンのもくろみが成功していたら、今日、ユダヤ人はひとりも残らなかったでしょう。
 何とかして助けられるでしょうか。

 ユダヤ人が全部殺されることをモルデカイが聞くと、彼は自分の着物を裂き、荒布と灰をかぶり、大声をあげて、激しく叫びながら町のなかにでてきました。
 彼は王の宮殿のまえまできて、門のところで泣きました。なかにはいることはできません。荒布をきた人は、宮殿にはいれないことになっていました。
 エステル王妃は、ハマンの計略のことを知りませんでしたが、女中からモルデカイが荒布と灰をかぶって門の外にいることを聞きました。
 何ごとかわからないままに、エステルはモルデカイに、破れて灰だらけの衣のかわりの衣服をおくりました。モルデカイはそれをおくり返してきました。
 エステルは驚きました。モルデカイはどうしたのでしょう。家族のだれかが死んだのでしょうか。彼女は、モルデカイに事情をたずねるために、家来をひとり送りました。なぜ喪にふくしているのですかと。
 モルデカイはその家来に、ハマンの計略をみな話しました。そして、王妃に見せるため、みことのりの写しを1枚わたしました。モルデカイは、エステルに、王のもとにいって、民の殺されないように懇願してくれ、と頼みました。
 これを聞いて、エステルは恐れました。そして、「王の家来や諸州の民は、すべて召されないのに内庭にはいって王のもとへゆく者は、必ず殺されなければならないことを、知っています。ただし王がその者に、金のしゃくを伸べれば、生きることができるのです。しかし、わたしはこの30日のあいだ、王のもとへゆくべし召をこうむらないのです」と、家来をとうしてモルデカイに伝えました。
 モルデカイは、その危険を知っていました。しかし、ユダヤ人がたいへんな危険にさらされていることも知っていました。
 そこで、エステルに「あなたは王宮にいるからといって、すべてのユダヤ人と異なり、難をのがれるだろうと思ってはならない。あなたがもし、このようなときに黙っているならば、ほかの所から、助けと救いがユダヤ人のために起こるでしょう。しかし、あなたとあなたの父の家とは滅びるでしょう。あなたがこの国に迎えられたのは、このようなときのためでなかったと、だれが知りましょう」とまた伝えました。
 エステルは召されていないので王のもとにいくことを考え、すっかりおじけづいてしまいました。しかし、自分のいのちをかけても、自分の民を救おうと決心しました。
 これがモルデカイに対する彼女のこたえでした。「あなたはいってスサにいるすべてのユダヤ人を集め、わたしのために断食してください。3日のあいだ夜も昼も飲み食いしてはなりません。わたしと侍女たちも同時に断食しましょう。それから王のもとへまいります。わたしがもし死なねばならないのなら、死にます」。
 3日後に、エステルは王妃の服を着て、王宮の内庭に立ちました。待っているあいだ、心ぞうが止まる思いでした。しかし王は、若くて美しい王妃を見たとき、にっこりとして、手にもっていた金のしゃくを差しだしてくれました。
 エステルは、はいってきて、しゃくの先にさわりました。王は親切に、「王妃エステルよ、何を求めるのか。あなたの願いは何か。国の半分でもあなたに与えよう」といいました。
 エステルはすぐさま、自分の願っていることを王にいいだせないので、「もし王がよしとされるならば、きょうわたしが王のために設けた酒宴に、ハマンといっしょにお臨みください」といいました。
 王はたいそうよろこび、家来に、「ハマンをはやく連れてきて、王妃のいうようにせよ」といいつけました。
 酒宴で、王はふたたびエステルに、何がほしいのかとたずねました。彼女が何か悩んでいることに気づいていたのです。
 しかし、エステルはまだいいだすのを恐れました。そして、「わたしの願いはこれです。もしわたしが王の目のまえに恵みを得、また王がもしわたしの求めを許されるならば、ハマンとごいっしょに、あすまた、わたしが設けようとする酒宴におのぞみください。わたしはあす王のお言葉どおりにいたしましょう」といいました。
 エステルが、自分の望みをなかなかいわないので、それが何か、王は好奇心からそれをますますしりたくなりました。
 ハマンは喜んで家に帰りました。彼は自分が、自分ひとりが。王といっしょに王妃の酒宴に招かれたのを自慢に思っていました。しかし、門をでるとき、その喜びもどこかへ飛んでいってしまいました。あのユダヤ人モルデカイが、自分に敬礼しないのを見たからです。
 ハマンは家にかえり、家族や友人を呼びあつめ、自分がどんなに富み、どんなに多くの子供がおり、そして他の大臣にもまさって王にかわいがられているかをあらためて語ってきかせました。
 最後に、「王妃エステルは酒宴を設けたが、わたしのほかにはだれも王と共にこれに臨ませなかった。あすもまた、わたしは王とともに王妃に招かれている。しかしユダヤ人モルデカイが王の門に座しているのを見るあいだは、これらのこともわたしには楽しくない」といいました。
 ハマンがこんな不愉快な思いをしているのを見て、妻や友人は、「高さ、20メートルあまりの木を立てさせ、モルデカイをその上にかけるように、王に申し上げなさい。そして王といっしょに楽しんでその酒宴においでなさい」といいました。
 ハマンはこの提案をよろこびました。そしてその午後、木を立てさせました。高くたかく木がたてられるのをハマンはながめ、自分の敵があそこからぶらさがるのを見たら、どんなに愉快だろう、と考えました。

 王はその晩、ねむれませんでした。彼は家来のひとりに、自分の統治の記録書をもってくるように、いいつけました。
 この書には、モルデカイがかつて、アハシュエロス王を暗殺しようとする王の家来の計画を発見したことが、書いてありました。家来がこのことを王に読み上げると、アハシュエロスは、「ほうびのことのために、モルデカイにはどんな褒美が与えられたか」とたずねました。「何も彼に与えていません」と家来はこたえました。
 そこで王は、モルデカイに報いようと考えました。彼は、「庭にいるのはだれか」とたずねました。
 「ハマンは庭に立っています」と家来はこたえました。
 朝はまだ早かったですが、ハマンは、前日たてた木に、モルデカイをしばり首にする許可を王から得るために、外庭にやってきたのでした。「ここへ、はいらせよ」と王は命令しました。ひいきのハマンがはいってくると、王は、「王が栄誉を与えようと思う人には、どうしたらよいか」とたずねました。
 ハマンは心のなかで、「王はわたし以外のだれに栄誉を与えようと思われるのだろうか」と思いました。
 そこですぐに、自分にいちばんしてもらいたいことを考えました。そして、「王の着られた衣服をもってこさせ、また王の乗られた馬、すなわち頭に王冠をいただいた馬をひいてこさせ、その衣服と馬とを王のもっとも尊い大臣のひとりの手にわたして、王が栄誉を与えようと思われる人にその衣服を着させ、またその人を馬に乗せることです。それを町の広場に導いて通らせ、『王が栄誉を与えようと思う人には、こうするのだ』とそのまえに呼ばわらせなさい」といいました。
 「急いであなたがいったように、その衣服と馬とを取り寄せ、王の門に座しているユダヤ人モルデカイにそうしなさい。あなたがいったことを一つも欠いてはならない」と王はこたえました。
 ハマンのにがにがしい失望とくやしさは、とても説明できません。彼は、自分が王の衣服を着て馬にのるものとばかり思っていたからです。ところが、自分は馬をひくもので、自分のかたきモルデカイが、立派な馬に乗るのだ、ということがわかったのです。
 彼は、王に従わなければなりませんでした。彼は、モルデカイに王の豪華な着物を着せ、金と銀で飾られたすばらしい馬にのせ、町の通りをすすみました。そして、歩きながら、「王が栄誉を与えようと思う人には、こうするのだ」と叫びました。
 町の人たちは、モルデカイが通ると低く敬礼しました。ハマンはどんなにつらかったでしょう。今まで、みなは彼に敬礼していたのです。ところが今は、彼のにくらしい敵に敬礼をおくっており、彼は、その馬をひいて行くしもべなのです。
 行進がすむと、ハマンは恥ずかしくて、顔もあげられませんでした。彼はなげきながら、頭をおおい、家に帰りました、
 彼は妻と友人たちに、ことの次第を全部はなしました。まだ話している最中に、王の家来が、彼をエステル王妃の酒宴に連れていくためにきました。ハマンは、そのことをすっかり忘れていました。
 酒宴の最中に、王はまた、「王妃エステルよ、あなたの求めることは何か。必ず聞かれる。あなたの願いは何か。国の半分でも聞き届けられる」といいました。
 エステルは、その手を合わせ、悲しげな目になり。ひざまずきました。そして、「主よ、もし、わたしが王の目のまえに恵みを得、また王がよしとされるならば、わたしの求めに従ってわたしのいのちをわたしに与え、またわたしの願いに従ってわたしの民をわたしに与えてください。わたしとわたしの民は売られて滅ぼされます」といいました。
 王は、美しい王妃の懇願の言葉を聞いたとき、怒りに燃えて飛び上り、「だれがそんなことを心にたくらんだのか」といいました。
 エステルは向きをかえて、ハマンをゆびさしながら、「その悪い敵は、このハマンです」とこたえました。
 怒りに燃えながら、王は酒宴の席を立ち、怒りを静めるため、宮殿の庭にでました。
 ハマンは恐れて立ち、王妃エステルに自分のいのちごいを始めました。王がいかに怒っているかを見て、自分がひじょうに危険なことに気づいたのです。
 王が庭からもどってきました。ハマンは恐れと苦痛のあまり、エステルのいる長いすにふしていました。これを見た王は、まえよりももうぜんと怒り、「王妃にふれるとは何ごとか」と叫びました。
 王がそんなに怒っているかを見、王がハマンの死を命じることに気づいた家来たちは、ハマンの顔を布でおおいました。そして、そのひとりが、「王のためによいことを告げたモルデカイのために、ハマンが用意した高さ20メートルの木が、ハマンの家に立っています」と告げました。 
 「彼をそれに掛けよ」と王は命じました。
 ハマンは直ちに外につれだされ、彼がモルデカイのためにたてた木に、しばり首にされました。
 エステルは、ハマンの残酷な計略について王に話しました。また、モルデカイが自分のいとこで父のように自分を育ててくれたことも話しました。王はモルデカイを呼び、一度、ハマンに与えた指輪を彼にわたしました。そして、モルデカイを、ペルシャ全王国で最高の職につかせました。

 ハマンは死にましたが、彼のした害は取り消されていません。12月の13日に、すべてのユダヤ人は殺されるというみことのりが、全国にだされていました。これはメデアとペルシャの法律となって、王さえも変えることができません。
 王はふたたび、エステルに金のしゃくを差しのべました。彼女は、「もし王がよしとされ、わたしが王のまえに恵みを得たならば、ハマンが王の諸州にいるユダヤ人を滅ぼそうとはかって書きおくった書を取り消す旨を書かせてください。どうしてわたしは、わたしの民に臨もうとするわざわいを、だまって見ていることができましょうか」といいました。
 王は、「わたしはハマンを木に掛けさせた。しかし、みことのりはメデアとペルシャの法律なので取り消すことができない。しかし、あなたがたがすべてのユダヤ人に今一つの書をつくり、おくりだすことをモルデカイにゆるす」と王はこたえました。

 そこで、王は大勢の書記を呼び集めました、モルデカイは各州に手紙を書かせました、これらの手紙は王の名によって書かれ、王の指輪の印がおされました。そして王の急使によって速やかに各方面にだされました。
 その手紙にはこう書いてありました。

 みことのり
 最初のみことのりによれば、12月の13日に、すべてのユダヤ人は滅ぼされることになっている。ここで王は、すべてのユダヤ人に、相集まって自分たちの生命を保護し、自分たちをおそおうとするものに対して戦う許可をあたえる。ユダヤ人は自分を守り、おそうものをすべて殺して良い。

 帝国中の町に、大きい町にも小さい町にも、この宣言の写しが、市場にはられました。そのころ新聞、電話、電報、ラジオといったものはありませんでした。しかし、赤ん坊以外には、市場に並んではってあるこの二つの宣言について知らない人は、帝国じゅうにいなかったでしょう。
 初めのものは、ユダヤ人は全部滅ぼされる、という、王の名のもとにだされたハマンの通知です。
 ハマンの宣言の側に、各町のユダヤ人が一堂に集まって、自分たちの生命を守るために戦い、すべて、自分たちに害をおよぼそうとする者に対し、力をあわせて戦うようにという、これまた王の名によってだされたモルデカイの手紙がかかげてありました。
 王の領土のユダヤ人たちには、この運命の日まで、9ヶ月の準備のときがありました。そしてその日になると、彼らはみなそれぞれの町に集まりました。各州の大臣たちはみなユダヤ人を助けました。ユダヤ人はその敵をみな倒し、ハマンの十人の息子を、父のたてた木にかけて殺しました。
 ユダヤ人たちは翌日やすみました、彼らはその日を喜びの日、酒宴の日、祝日としました。このあいだに、モルデカイは大そう偉い人になりました、彼は紫と白の貴族の衣服を着、金のかんむりを頭にのせていました。ときだたつにつれ、彼はいっそう権威ある地位につき、やがて王に次ぐものとなりました。
 王はすべてのユダヤ人に、12月の13日と14日は、ユダヤ全民族が滅ぼされる危険にさらされた恐ろしいときに記念として、毎年祝うように、手紙を書きました。
 この2日間は、プリムの祭りと呼ばれました。ユダヤ人は今日でも、ユダヤ民族が滅亡から救われた記念として、毎年この祭りを守っています。

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