神様は、イスラエルの民がみな、神様を忘れて偶像礼拝者になるのを、黙って見ていらっしゃるのでしょうか。いいえ、そうではありません。神様は、エリヤという預言者を起こされました。彼はもっとも偉い預言者のひとりです。主はこのエリヤをアハブ王の所に遣わし、偶像礼拝のためにアハブを罰すると伝えさせられました。
エリヤは、ヨルダン川の東側に住んでいました。アハブに伝えるメッセージを主から受けると、きびしく、怒りに満ちた預言者は、ヨルダン川を渡りサマリヤにやって来ました。彼は豪華な宮殿の金剛石の階段を上がり、王の前に堂々と入って来ました。そして、手を天に向け、厳かな声で「私の仕えているイスラエルの神、主は生きておられます。私の言葉のないうちは、数年雨も露もないでしょう」と言いました。そして、エリヤは悪い王に背を向け,宮殿から出て行きました。
神様は、エリヤに言われました。「ここを去って、ヨルダンの近くにあるケリテ川の側に身を隠しなさい。あなたは、その川の水を飲み、私がカラスに命じてあなたのところに運ばせる食べ物を食べる」こうしてエリヤは、怒っている王から身を隠し、川の側に住みました。もしアハブに見つかったら首を切られたことでしょう。
暫くすると、雨が降らないため川は干上がってしまいました。主はエリヤに、イスラエルの町でない北のザレパテという町に行くよう命じられました。神様は、そこに住む一人の未亡人にエリヤの世話をするように命じられたのです。エリヤはすぐに干上がった川を離れ、160キロ以上も北にあるザレパテまでの長い旅に出かけました。エリヤはそこまで歩かなければなりません。人々から隠れて、ひそかに旅をしなければなりません。アハブは何とかエリヤを捕まえようと国中を探していたのです。アハブは雨の降らないのはエリヤのせいだと思ったので彼を殺したかったのです。
旅を続けたエリヤには、何もかもがしおれてしまい、殺伐として、枯れ果てた畑が目につきました。毎日、灼熱した太陽が照りつけ、何もかも焦がし、空はあかがねのようで、雲や霞の気配もありません。
長い長い旅の後、エリヤはようやくイスラエルの国からシドンの国に入り、ザレパテの町に来ました。町の門まで来ると、未亡人がたき火を作るために木を集めているのを見かけました。エリヤは、彼女に一杯の水を求めました。彼女がそれを取りに行こうとすると、エリヤは、彼女に「一切れのパンも持って来てください」と頼みました。女は、「あなたの神、主は生きておられます。わたしの家には、一切れのパンもありません。ただ、かめに一握りの粉と、びんに少しの油があるだけです。今、私はたきぎ二、三本を拾い集め、火を焚いて、私と子供の為にそれを調理するつもりです。それを食べてしまうと、もう何もなく飢え死にするだけです」と答えました。エリヤは彼女に言いました。「イスラエルの神は、雨を地に降らせるまで、かめの粉は尽きず、びんの油は絶えないと言っておられるから心配しないでよい。」
そこで女は、はじめにエリヤに小さなパンを作り、それから、自分とその息子の為に一つ作りました。預言者の言う通りでした。彼女が何度パンを焼いても、かめの粉は尽きず、びんの油もなくなりませんでした。いつも十分残っていました。これは、神様の偉大な力だけがなすことのできる奇跡でした。神様は、その預言者エリヤに、素晴らしい奇跡を働く力を与えられたのです。
それからまもなく、この婦人の子供が重い病気にかかりました。とうとう死にました。婦人は、子供が死んだのは、自分の犯した何かの罪の罰だと思いました。彼女は悲しみながらエリヤの所に来ました。そして、「神の人よ、あなたは私の子を殺して私の罪を罰するためにおいでになったのですか」と言いました。「子を私によこしなさい」とエリヤは命じました。そして、子供を母の腕から抱き取って二階の自分の部屋に連れて行き、自分のベッドに寝かせました。エリヤは、神様に呼ばわり、「わが神、主よ、この子供の魂をもとに帰らせてください」と祈りました。何と珍しい願いでしょう。死んで生き返った人など、一人もいないのです。しかし、神様にはそれができるとエリヤは信じていました。
彼は子供の身体の上に身を伸ばし、これを三度繰り返しました。神様は、エリヤの祈りをお聞きになりました。子供の魂は戻ってきました。息をし始めたのです。エリヤは子供を母親の所に抱いて行き、「ごらんなさい。あなたの子は生き返りました」と言いました。喜んだ母親は、可愛い子供を抱きしめ、頬ずりしました。彼女はエリヤに叫びました。「今こそ私は、あなたが本当の神の人であることを知りました」と。
3年間、雨が降らずに過ぎました。ひと月過ぎ,ふた月過ぎても、一滴の雨も空から降って来ません。毎日毎日、太陽は登り、焼けつく光を渇ききった土に投げかけました。毎日毎日、人々は、雲のひとかけらでもないかと空を仰ぎましたが、何も見えません。川の水は減り、とうとう干上がってしまいました。畑は灼熱した太陽のもとに焼けて枯れています。動物は草一本見つけることも出来ないで飢えています。人々が蓄えていた僅かな食物も、もうほとんど底をついています。みな飢えに苦しんでいました。
アハブ王は、自分の家の長オバデヤに、「国中の小川や泉のある所に行って、馬やロバのため少しでも草があるか見てみよう。そうすれば家畜をみな死なせずに済むだろう。」と言いました。国中を巡るため、アハブとオバデヤは、別々の方向に行きました。その頃、エリヤはまだザレパテに未亡人と一緒に住んでいました。神様は彼に、「行って、あなたの身をアハブに示しなさい。私は地に雨を降らせる。」と言われました。そこでエリヤは、イスラエルの国に出てきました。野で、草をさがしているオバデヤに会いました。オバデヤはエリヤを見てすっかり驚きました。というのは、アハブ王は、飢饉の原因はエリヤだとして、いたるところ彼を探したからです。国中探したのにエリヤは見つかりませんでした。それなのに、今ここにいるではありませんか。
オバデヤは地に伏して、「あなたはわが主エリヤですか。」と尋ねました。エリヤは、「そうです。エリヤです。行ってあなたの主人に、わたしがここにいると告げなさい。」と答えました。「私の主人があなたを尋ねるために、あらゆる所を探しました。王は民に、あなたが見つからないと誓わせました。あなたは今、『アハブ王のもとに行って、エリヤはここにいると告げよ』と言われます。しかし、私が告げに行くやいなや、主の霊は、あなたをどこか遠い所に連れて行くでしょう。私が行ってアハブに告げ、彼があなたを見つけることが出来なければ彼は私を殺すでしょう。
私は、幼い時から主を礼拝している者です。イゼベルが主の預言者を殺した時に、私がしたことをあなたは聞かれませんでしたか。私は、主の預言者のうち100人を二つの洞穴に隠し、パンと水をもって養ったのです。あなたは、アハブが私を殺したくなるようなことづてを私に託して、そのお返しにするのですか」とオバデヤは答えました。しかし、エリヤは約束しました。「イスラエルの主は生きておられる。今日は必ず、私の身を彼に示すであろう」と。
そこでオバデヤは、アハブ王に会いに行き、エリヤが見つかったことを告げました。アハブはエリヤを見るや、「あなたがイスラエルを悩ましている者ですか」と尋ねました。「私がイスラエルを悩ますのではありません。あなたとあなたの悪い父上が悩ましたのです。あなたがたが主の命令を捨て、バアルに従ったためです。さあ、イスラエルの全ての人とバアルの預言者450人、並びにアシラの預言者400人をカルメル山に集めなさい」とエリヤはきびしく言いました。
アハブは、イスラエル中に使者を出して、カルメル山で預言者エリヤに会うため集まるように言いました。人々は山に集まりました。アハブは、バアルとアシラの預言者を連れて来ました。エリヤは皆の前に堂々と立ち、響き渡る声で、「あなたがたはいつまで、二つのものの間に迷っているのですか。主が神ならばそれに従いなさい。しかし、バアルが神ならばそれに従いなさい。」と言いました。
人々は、一言も答えませんでした。彼らはバアルに従うために、自分たちの神を離れたことを知っていました。恥じらいの色が皆の顔にも表れました。あるいは、何人かの人は「私たちは主に従います」と言いたかったのかもしれませんが、王と850人の預言者の前では言いそびれてしまったのでしょう。勇敢な預言者はただ一人、大群衆と、バアルやアシラの預言者850人とに向かい合って立っています。預言者の声が再び山に響き渡りました。
「私はただ一人残った主の預言者です。しかし、バアルの預言者は450人います。我々に二頭の牛を、いけにえのためにください。そして、一頭の牛を彼らに選ばせ、それを薪の上に乗せ、それに火をつけずにおかせなさい。私も一頭の牛を整え、それを薪の上に乗せて火をつけずにおきましょう。こうしてあなたがたは、あなたがたの神の名を呼びなさい。私は主の名を呼びましょう。そして、火をもって応える神を神としましょう」と言いました。人々は、「それがよかろう」と答えました。