その一 悪いニュース
みなさんも覚えているようにサムソンは大勢のペリシテ人を征服し、彼らは長い間イスラエル人を悩まさないほどに押さえつけられました。
しかし、サムソンが死んでからもう何年かたち、ペリシテ人は増えて強くなってきました。イスラエル人は彼らと戦い、ひどく負けました。四千人ほどのイスラエル兵が殺されました。
長老達はお互いに「なぜ主は、今日ペリシテ人の前に我々を敗られたのか。この次からは主の契約の箱を戦場に携えて行こう。こうして主を我々のうちに迎えて敵の手から救っていただこう。」と言いました。
この計画のどこが間違っていたのでしょう。
金の箱は大変神聖であったことを皆さんはご存知ですね。この箱は年に一度だけ、民の罪を贖う時に、大祭司だけが入ることを許されていた至聖所に置かれていました。イスラエル人が旅をする時も、箱は覆われていて誰も見ることができませんでした。
それなのに民は、箱を幕屋から出して戦場に持って行こうというのです。おまけに戦いに箱を担いで行くのはエリの悪い息子たちでした。
契約の箱が陣営に持ち込まれると、民は大声で叫び、まわりにその叫びが響き渡りました。
ペリシテ人もその叫びを聞き「へブル人の陣営のこの大きな叫び声は何事か」と尋ねました。誰かが契約の箱が陣営に持ち込まれたことを話しました。ペリシテ人は、恐怖におののきました。こんなことは今までにありません。誰が彼らをイスラエル人の手から救ってくれるのでしょう。「これらの神々は、もろもろの災いを持ってエジプト人を荒野で撃ったのだ。」と彼らは言いました。ペリシテ人は、イスラエルの神が一人であることも知りませんでした。自分たちのようにたくさんの神があると思っていたのです。
ペリシテ人は戦いに負けると思いましたが逃げるほど臆病ではありませんでした。ペリシテ人は勇敢に戦いました。そして、イスラエルを負かしました。エリの二人の息子、ホフニとピネハスは殺されました。そして、ペリシテ人は箱を奪いました。
一人のイスラエル兵は、戦いの結果をみんなに告げるためシロに走って帰りました。大敗北に対する嘆きを表すため、彼は着物を破り頭に土を被りました。この人がシロの住民に敗北の情けない話をすると町全体が激しく嘆きました。
目の見えなくなったエリは、戦争の情報を待って道の傍らに座っていました。心配で体中を震わしていました。神の契約の箱がどうかなったのでしょうか。
彼は人々の叫びを聞き「この騒ぎ声は何か」と尋ねました。先の人はエリのもとに来て、「私は戦場から来たものです。イスラエル人は敗北し、多くの戦死者を出しました。あなたの二人の子、ホフニとピネハスも死に、神の箱が奪われました。」と告げました。
気の毒なエリは、この悲しいニュースを恐れて聞きました。神様は自分の息子達の悪を罰せられました。しかし、神の箱が奪われたと聞いてエリは卒倒しました。彼は後ろに倒れたので首の骨を折って死にました。
その二 箱の話
ペリシテ人は神の箱をアシドドという彼らの町のひとつに運びました。アシドドにはダゴンという魚神の神殿があります。ペリシテ人は契約の箱をこの神殿に運び、偶像のそばにおきました。
朝、ペリシテ人が神殿に行ってみるとダゴンが神の箱の前にうつむけに倒れていました。彼らは像をおこして元の位置に戻しました。ところが翌朝、ダゴンはまた倒れていました。しかも今度はその手と首が折れていました。筒みたいなものしか残っていません。それというのはダゴンの下半身は魚の尾だったからです。
町の人も病気になり、大勢死にました。
彼らは「イスラエルの神の箱を我々の所にとどめておいてはならない。その神の手が我々と我々の神ダゴンの上に厳しく臨むからである。」と言いました。
アシドドの人は、ペリシテの君を皆集めて、箱の始末について相談しました。
そして、ペリシテのもう一つの町ガテに箱をやりました。ところが神様はガテの人々の間に腫れ物のできる病気を広げられここでも大勢の人が死にました。箱は七ヶ月の間ペリシテの国にありました。そして、箱の置かれた所に神様は病気や災いをおくられそのために大勢が死にました。
ペリシテ人は神の箱を置いておくことを恐れだしましたが、さて、どうすればよいのかわかりません。彼らは異教の祭司や、魔術師を呼んで解決をつけようとしました。魔術師達は、もし箱をイスラエル人に返すのなら、イスラエルの神の栄光を示すために供え物を添えて返さなければならないと言いました。エジプト人がその心を頑なにした時、どんなひどい目にあったかを皆覚えていました。
魔術師は民に新しい車を作り、これに子牛を引き離したばかりの親牛を二頭つなぐことを命じました。供え物と箱は、車に乗せなければなりません。それから車はイスラエルの国のベテシメシに通じる道に置かれなければなりません。もし牛がまっすぐにベテシメシに行くようであれば、この病を送ったのが主であることをペリシテ人ははっきり知るが、もし、牛が自分の子牛を慕って戻るようであれば、これは主からの病気ではなく偶然であったことがわかる、と彼らは言いました。
ペリシテ人はこの案に従いました。車がベテシメシに通じる道におかれると、牛は一度も後ろを振り向かないでなきながらまっすぐ進んでいきました。
ペリシテの君たちは、牛がベテシメシに行き着くまで見届けました。
ちょうど麦の刈り入れどきでした。町の人はみんな畑で麦の刈り入れに忙しくしていました。ふと見ると、自分たちの神の契約の箱が運ばれてくるではありませんか。その後ろからはペリシテの君たちがついて来ます。彼らは大喜びで箱を迎えました。
何人かのレビ人−箱に触れる権利のあるのは彼らだけです−は、車から箱を降ろしました。そして、そばにある大きな石の上に供え物と一緒にのせました。それから主にはん祭やいけにえを捧げました。
ところがベテシメシのイスラエル人は大そう間違ったことをしました。
彼らは大勢、箱の置かれている石の所に集まり、二つの金のケルビムのついている蓋を開け箱の中を覗いたのです。これは間違ったことでした。レビ人以外の人は箱に触ってはいけなかったのです。
神様は直ちに彼らを罰し多くの人々が死にました。
それで人々は、箱をベテシメシに置いておくのを忘れて、キリアテ・ヤリムという町の人々に箱を持っていってもらうように頼みました。キリアテ・ヤリムの人々は、自分たちの町に持って行きました。箱は二十年間その町に置かれました。