その一 デリラ
この後しばらくして、サムソンはまたペリシテ人の国に行きました。そして、また一人のペリシテの女を愛するようになりました。その人の名はデリラでした。ある日、サムソンのいない時に、ペリシテの王たちはデリラの所に来て「あなたはサムソンを説きすすめて彼の大力の秘密はどこにあるか、またどうすれば彼に勝って、彼を縛り苦しめることが出来るかを見つけなさい。そうすれば我々はおのおの銀千百枚ずつをあなたに差し上げましょう。」と言いました。
もしデリラが善良な婦人でサムソンを愛していたらこの申し出を断ったでしょう。もし、ペリシテ人がサムソンの力の秘密を知ったら、サムソンをいじめて殺すことを知っていたからです。それなのに彼女はサムソンよりも千百枚の銀を大切に思いました。
サムソンと二人きりになると彼女は「あなたの大力の秘密はどこにあるのか、またどうすればあなたを縛れるのかどうぞ私に聞かせて下さい」と言いました。サムソンは嘘をついて「人々がもし乾いたことのない七本の新しい弓づるで私を縛るなら、私は弱くなって他の人のようになるでしょう。」と言いました。デリラはサムソンの言葉をペリシテの王たちに伝えました。
そこで彼らは乾いたことのない七本の弓づるを彼女の所に持ってきて部屋に隠れました。デリラは弓づるでサムソンを縛り「ペリシテ人があなたに迫っています。」と叫びました。サムソンは立ち上がり、腕を張って、火に当てたひもが切れるように弓づるを簡単に切ってしまいました。
デリラはサムソンにうそをつかれたことに気づき、本当のことを教えるようにせがみました。そのかわり「人々がまだ用いたことのない新しい綱をもって私を縛るなら、弱くなって他の人のようになるでしょう。」と言いました。
そこでデリラは、まだ新しい綱を持ってきて彼を縛りました。この時も部屋に何人かのペリシテ人が隠れていました。サムソンをしっかり縛ると彼女は「ペリシテ人があなたに迫っています。」と叫びました。サムソンは飛び上がり腕を張りました。すると新しい綱は糸のように切れました。
デリラは怒りました。「あなたはまた私を欺いて嘘を言いましたが、どうしたらあなたを縛ることが出来るのか私に聞かせて下さい。」と言いました。サムソンは「私の髪の毛七ふさを機を織るとき一緒に織ると良い。」と答えました。サムソンが機の側で眠るとデリラは織り始めました。そして、サムソンの長い毛を機に織り込みました。彼の長い毛を機に織り込んだ後、彼女は「サムソンよ、ペリシテ人があなたに迫っています。」と叫びました。サムソンは目を覚まし飛び出しました。そして、重い機と釘を毛に付けたまま出て行きました。デリラはまた騙されたことに気づきました。少しも弱くなっていません。
彼女は、「あなたの心が私を離れているのにどうして『おまえを愛する』ということが出来ますか。あなたは既に三度も私を欺き、あなたの大力の秘密がどこにあるかを私に告げませんでした。」と言って彼を責めました。サムソンは彼女に力の秘密を教えてはいけないことをよく知っていました。残酷なペリシテ人を打ち倒し、イスラエルの民を助けるためにこの大力を神様から与えられていたのでしょう。もしデリラにその秘密を教えれば必ずペリシテの王たちに伝えるでしょう。
その二 捕虜
来る日も来る日もデリラは力の秘密を教えてくれとうるさくせがみました。彼女はペリシテの王たちの約束した千百枚ずつの銀が欲しくてなりませんでした。彼女はサムソンのことなどどうでも良かったのです。サムソンがもうたまりかねるまで彼女は彼を責めました。とうとう我慢しきれなくなって、彼は生まれたときから神のナザレ人なので毛を切ったことがないことを彼女に話しました。もし毛を切れば彼の力はうせ、他の人のように弱くなるでしょう。
デリラはすぐに今度は本当であることを知りました。彼女はペリシテの王たちに「サムソンはその心をことごとく私に打ち明けましたから今度こそ登っておいでなさい。」と言いました。
王たちはもう一度デリラのためのお金を持ってやってきました。彼女は家に床屋を隠し、それから自分の膝にサムソンの頭を乗せてサムソンを眠らせました。サムソンがぐっすり眠ると彼女は床屋を呼びました。彼はそっと入ってきてサムソンの毛を七ふさ切りました。そこでデリラは大きな声で「サムソンよ、ペリシテ人があなたに迫っています」と呼びました。サムソンは目を覚まし「私はいつものように出て行って身体を揺すろう」と言いました。神様が自分から離れてしまわれたことに気づいていなかったのです。
毛を切ってはいけないと云う神様の命令が破られた時、その偉大な力は失われたのです。今度は他の人と同じように弱くなっていたので、サムソンはすぐにペリシテ人に捕まってしまいました。そして、残酷なペリシテ人は、彼の目をえぐり抜きました。彼らはかつてサムソンが門を担いで行ってしまったガザの町に彼を連れて行き、青銅の鎖で繋いで獄やでうすを挽かせました。可愛そうなサムソン。彼は目の見えない人となり力もなくなってしまいました。そして、一日中穀物をこなすうすをぐるぐる回して挽かなければなりませんでした。
しかし、神様は完全に彼から離れてしまわれたわけではありません。サムソンの毛は伸び始め、それと同時にその力が戻ってきました。
ペリシテ人は、大きな祝宴を開くこととなりました。彼らはその魚神ダゴンに犠牲を捧げたかったのです。ダゴンのおかげでサムソンが捕らえられたと彼らは考えていました。大祝宴はダゴンの神殿で開かれました。六千人位の人が飲んだり食べたり歌ったりして、敵サムソンを負かしたことを祝いました。こうやって楽しんでいる時に「サムソンを呼んで彼を嘲ろう」ということになりました。気の毒な目の見えないサムソンが若い子供に手を引かれ、おぼつかなげに入ってくると人々は嘲笑を浴びせかけました。何かに躓くと人々は大声で笑いたてました。神殿には男や女が一杯入っていました。三千人ほどの人は平たい屋根に上がりサムソンを上から見物していました。しばらくしてサムソンは手を引いている子に柱に寄りかかりたいから神殿の屋根を支えている柱を教えてくれるように頼みました。
それからサムソンは、心の底から「ああ、主なる神よ。どうぞ私を覚えてください。ああ、神よ。どうぞもう一度私を強くして、私の二つの目のためにペリシテ人にあだを報いさせてください。」と祈りました。彼は屋根を支えている中央の二本の柱を、一つは右手で、一つは左手で抱え、そして「私はペリシテ人と共に死のう。」と言いありったけの力を振り絞って柱を引きました。柱はきしみ揺らぎました。そして、凄い響きを立てて屋根と一緒に崩れました。屋根にいた人々は悲鳴をあげながら下にいる者の上に落ち、下にいる者は潰されてしまいました。サムソンはペリシテ人と共に死にました。彼が生きていたときよりも死ぬ時に殺した敵の数のほうが多かったのです。
可愛そうなサムソンの一生は悲しい不幸なものでしたが、多くのペリシテ人を殺すことによってイスラエルを助けました。暫くの間、彼らはイスラエル人を悩ますのを止めました。
皆さんは、イスラエル人が異教の民をこんなに大勢殺すように命令されたことを不思議に思うかもしれません。けれども真の神様についての知識はユダヤ人しか持っていなかったことを覚えていなければなりません。もし、彼らが異教の民に征服されたり、彼らが偶像礼拝に走ったりしたなら、真の神の知識は全世界から消されていたことでしょう。神様はこうなることを警戒されたのです。イスラエル人は、異教の女と結婚したり偶像を礼拝したりして何度も神様に背きました。しかし、またその度ごとに神様に立ち返り神様は彼らを治めるための士師を遣わされました。ヨシュアが死んでからの四百年の間に十五人の士師がイスラエルを治めました。