おはようございます。山下正雄です。
旧約聖書に登場するヨセフという人物の歩んだ道は、ほんとうに山あり谷ありの人生です。
17歳の頃までは、父親に溺愛されて、家でぬくぬくとした暮らしを送っていました。ところがその頃見た夢がきっかけで、兄たちの怒りや不満も頂点に達します。何しろ兄たちが弟のヨセフに頭をさげてお辞儀をする夢ですから、兄たちには面白くない夢です。怒った兄たちは、その夢が実現しないようにヨセフをエジプトに売り飛ばしてしまいます。
エジプトでは位の高い人の家に買い取られ、家のことをすべて任されるほどに信頼を得ました。ところが、その幸せも長くは続きませんでした。その家の奥さんに濡れ衣を着せられることとなり、牢屋に入れられてしまうのです。正しい人間が苦しみに会うのを見ると、わたしたちは「神様の正しさ」がわからなくなってしまいます。なぜ、神がそれを黙って見ていらっしゃるのか、神様の沈黙に耐え切れなくなってしまいます。
しかし、ヨセフはそれでも、置かれた境遇の中で一所懸命に生き抜きます。ヨセフのひたむきな姿勢は牢獄の監守長の目にとまります。やがては囚人たちの面倒をまかされるにまで信頼を得ます。
疑いが晴れて、監獄から出られるチャンスも間近に迫ってきそうです。丁度そのとき、ヨセフの後から投獄された二人の人物の夢を解き明かしてあげることになったのです。この二人の人物はエジプト王の給仕役と料理役でした。二人とも王に対して過ちを犯してしまったために投獄されてきたのです。二人の見た夢は、それぞれ自分の近い将来に関わるものでした。給仕役の見た夢はやがて自分が釈放される夢でした。料理長の見た夢は自分が処刑されることになる夢でした。この夢を解き明かしたヨセフは、釈放されることになる給仕役に頼みました。
「無事、牢から出ることが出来たなら、エジプト王に取り入って、エジプトの地を出られるように取り計らって欲しい」と。
しかし、夢の解き明かしのとおりに給仕長は釈放されましたが、ヨセフの頼みはすっかり忘れ去られてしまったのです。
こういう理不尽な人生を見ていると、苛立ちを覚えるかもしれません。何もかもがうまくいかない、行き詰まった人生に見えます。あの釈放された給仕役がヨセフのことを思い出すのには、まだ時間が掛かりました。あれから二年間もヨセフのことは思い出されなかったのです。エジプトの王ファラオが自分の見た不思議な夢に思い悩む時、ヨセフの出番がようやくやって来ました。
王の見た夢は、これから先起る、7年間の豊作とそれに続く7年間の飢饉に関わるものでした。ヨセフはこの夢の解き明かしをして、豊作の間に農産物を蓄えるようにと王に進言します。
こうして、ヨセフは王に取り立てられて、とうとうエジプトの実質的な支配を任されてしまいます。このときヨセフの年齢はおよそ30歳でした。30歳にして国のトップに踊り出るというのは、チャンスに恵まれた素晴らしい人生だと思われるでしょう。しかし、17歳で奴隷としてエジプトに売り飛ばされ、ここに至るまでの13年間の辛い歩みだけを見れば、だれもヨセフが恵まれた人だとは思わないでしょう。
わたしたちはいつも人生の断片だけを見て、自分の人生の良し悪しを判断してしまいます。しかし、断片でしか見ない人生にも、完成されたときのジグソーパズルのような美しさが待っているのです。