キリストへの時間 2004年5月23日放送    キリストへの時間宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄(ラジオ牧師)

山下 正雄(ラジオ牧師)

メッセージ: 苦労と悩みに目を留められる神

 おはようございます。山下正雄です。
 旧約聖書創世記に登場するヤコブは、双子の兄エサウとの喧嘩がもとで、故郷を追われ、伯父さんのもとで20年もの長い間暮らしていました。その間に結婚もし、たくさんの子供たちも生まれました。後にイスラエルの12部族となる子供たちです。かつて神がアブラハムに与えられた約束、「あなたの子孫は星の数のようになる」と言う約束にはまだほど遠いとはいえ、それでも、神の約束は確実にヤコブの上に留まっているように見えます。

 やがてヤコブは伯父さんのもとを去り、再び故郷へ帰ろうとします。しかし、伯父さんにとってヤコブはもはや欠かせない存在となっていました。伯父さん一家にとってはよき働き手であり、なによりも、娘婿なのですから、心情的にも遠くへ行って欲しくはなかったことでしょう。そう簡単に去らせるわけには行きません。故郷へ戻りたいと思う気持ちがヤコブに募れば募るほど、伯父さんの気持ちは穏やかでなくなってきます。あれやこれやと条件をつけては、ヤコブを自分のもとに留めようとします。
 ヤコブはある日、家族と財産を伴って、こっそりと伯父さんのものとを去っていきます。しかし、伯父さんも黙っているわけには行きません。執拗に後を追いかけてきます。伯父さんのやり方に堪忍袋の緒が切れたヤコブは、20年間の苦労を一気に吐き出します。

 「この20年間というもの、わたしはあなたのもとにいましたが、あなたの雌羊や雌山羊が子を産み損ねたことはありません。わたしは、あなたの群れの雄羊を食べたこともありません。野獣にかみ裂かれたものがあっても、あなたのところへ持って行かないで自分で償いました。昼であろうと夜であろうと、盗まれたものはみな弁償するようにあなたは要求しました。しかも、わたしはしばしば、昼は猛暑に夜は極寒に悩まされ、眠ることもできませんでした。この20年間というもの、わたしはあなたの家で過ごしましたが、そのうち14年はあなたの二人の娘のため、6年はあなたの家畜の群れのために働きました。しかも、あなたはわたしの報酬を10回も変えました」

 この言葉の中にはヤコブの20年間の苦しみが凝縮されています。20年間の過酷な暮らし振りが目に見えるようです。その上、10回も裏切られて報酬を変えられたのでは堪ったものではありません。
 けれども、ヤコブにとって、この20年間はただ苦しいだけの20年間ではありませんでした。ヤコブは信仰の人だったのです。いえ、この20年間がヤコブをいっそう信仰の人へと成長させていったのです。
 伯父さんのもとへ来る道中、ヤコブは神の確かな存在に出会いました。そのとき、ヤコブが耳にし心に留めた言葉はこうでした。

 「見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」

 この20年間はヤコブにとってこの言葉の確かさを何度も思い起こさせられる20年間だったに違いありません。ヤコブにとっては、あの苦しい20年の中で神の約束を疑い、神などいるものかとすべてを投げ捨ててしまう方がよほど簡単だったかもしれません。しかし、ヤコブはこの辛い20年の苦労の中で、いっそう神を身近に感じたのです。ヤコブは伯父さんに向かって言います。

 「神は、わたしの労苦と悩みを目に留められた」

 苦しみの最中で、そう確信できる信仰は何と幸いなことでしょう。

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