BOX190 2004年12月8日放送     BOX190宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄 (ラジオ牧師)

山下 正雄 (ラジオ牧師)

タイトル: 「牧師さんの服装は?」 神奈川県 ハンドルネーム・よっちゃん

 いかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会提供あすへの窓。水曜日のこの時間はBOX190、ラジオを聴いてくださるあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。

 それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は神奈川県にお住まいのハンドルネームよっちゃんさんからのご質問です。お便りをご紹介します。

「山下先生、はじめまして。時々ネットで番組を聞いています。
 さて、この前、初めて教会へ行ってみましたが、少し意外に感じたことがありました。それは牧師先生の服装です。テレビや映画で見る神父様や牧師先生は、いかにもそれらしい格好をしているのですが、その教会の先生は普通のスーツにネクタイ姿でした。
 牧師らしい服装って何か決まりみたいなものがあるのでしょうか。確かむかし友人の結婚式の時にいらした牧師先生はガウンを着ていたように記憶しています。ガウンを着るのは特別な時だけなのでしょうか?
 くだらない質問かもしれませんが、よろしくお願いします。」

 ということなんですが、よっちゃんさん、メールありがとうございました。教会で初めて見る牧師先生の服装が意外だったと言うことだそうですが、確かに、どんな宗教でもそれに携わる特別な立場の人には、それなりの服装と言うものがありますね。日本でよく見かける仏教のお坊さんは袈裟を身に纏ったり、神道の神社では神主さんが狩衣・衣冠といった装束を身に纏っています。テレビや映画で見るキリスト教会の聖職者といえば、大抵は結婚式やお葬式の場面でガウンを来た姿ではないかと思います。初めて実物で見る牧師先生がスーツとネクタイで講壇の上から語っているのにびっくりされた気持ち、わかるような気がします。

 キリスト教会の聖職者、プロテスタント教会の牧師先生やカトリック教会の司祭様がどういう服装でお勤めをされているのかというのは、それぞれの歴史がありますので簡単にお話することはできないかもしれません。今、大雑把にカトリック教会とプロテスタント教会といってしまいましたが、その他にもギリシャ正教会やロシア正教会も加えれば、もっといろいろなバラエティにとんだ服装の歴史があります。それから、プロテスタントと一口で言っても、その中にも服装に関しては細かな違いがあります。その一つ一つについてお話をすることは、時間的にも無理ですし、わたしの経験と能力からいっても無理なことです。きょうはごくごく一般的なことだけにしておきたいと思います。

 そもそも聖書の中ではどうだったのかと言うと、キリストの12人お弟子さんたちは皆もともとは、魚をとる漁師さんだったり徴税人という税金を取り立てるお仕事をしていた人たちですから、特別な服装と言うものを持っていたわけではありません。生まれたばかりのキリスト教会もそれほど組織化されていたわけではありませんでしたから、新約聖書の中に服装についての規定も見られません。

 しかし、旧約時代に幕屋や神殿で働いていた祭司の服装については旧約聖書の中に細かな規定が出てきます。例えば、旧約聖書出エジプト記の28章には祭司が着る祭服や胸当て、上着、額当てといったものについてのデザインが記されています。

 こうした旧約聖書の祭司の服装のデザインが後のキリスト教会の式服や祭服の直接のモデルになったのかと言うと、どうもそうではないと言うのが研究者たちの意見のようです。

 キリスト教会の中でいわゆる聖職者たちが特別な服装をまとって礼拝を執り行うようになったのは4世紀ぐらいからのことで、9世紀から10世紀ぐらいまでに発達したと言われています。

 さて、何種類もあるこれらの式服について、言葉だけで説明してもあまり意味がないと思いますので、よっちゃんさんが意外に感じられた、プロテスタントの牧師さんの服装についてお話をしたいと思います。

 ご存知かもしれませんが、プロテスタント教会の多くはカトリック教会が何世紀にもわたって作り上げてきた式服や祭服の伝統を意識的に拒絶して来ました。では、プロテスタント教会の牧師たちは礼拝の時に何を着用したかというと、例えばルターやカルヴィンはいわゆるアカデミック・ガウンと呼ばれる大学服をまとって講壇に立ちました。その伝統はプロテスタント教会の中でも長く受け継がれていて、今日でも欧米の教会へ行くとアカデミック・ガウンをまとって説教をしている牧師先生にお目にかかることができると思います。

 もっともヨーロッパやアメリカの大学では特別な機会に今でもアカデミック・ガウンを着る習慣があるのかも知れませんが、日本では当然そういう習慣がありません。またアカデミック・ガウンをもっている牧師先生も日本ではそう多くはいないと思います。日本のプロテスタント教会ではスーツ姿で礼拝を執り行う方がほとんどです。先ほど、欧米の教会では今でもアカデミックガウンをまとって説教をする牧師たちがいると言うことをお話しましたが、わたしが実際に見て回ったいくつかの教会では、スーツにネクタイ姿で礼拝を行う牧師の方が多かったように思います。むしろ、アメリカの教会でもアカデミック・ガウンで講壇に立つ牧師は少ないのではないかと思います。

 ところで、イギリス国教会では16世紀に礼拝に用いる聖職者の服装に関して、エドワード6世の『第一祈祷書』の定めをめぐって論争が起りました。この式服着用に関する論争はその後も続き、とくにピューリタンたちは祭服の着用を拒み、英国国教会から離れて行くようになったと言われています。こうしたピューリタンたちの影響も今日の牧師の礼拝での服装に少なからぬ影響を与えているのではないかと思います。

 では、結婚式など、特別な機会の服装はどうなのかというと、これも意外に思われるかもしれませんが、プロテスタント教会の牧師たちは、一般社会で受け入れられているいわゆる「略礼服」やモーニングなどで結婚式の司式を行うことが多いように思います。人によってはガウンを着用する人もいますが、華美にならないように黒色のガウンが一般的です。しかし、一般の結婚式場で行われるキリスト教風の結婚式が華やかになり、そうした場所で牧師役を務める人たちの服装がだんだんと華美になってきて、こうした服装がほんとうのキリスト教会でも普通なのだという誤解を生んでしまったのは、とても残念な気がします。

 たかが服装のことと思われるかもしれませんが、何世紀にもわたってその伝統を作り上げてきたカトリック教会にとっても、またそのカトリック教会の伝統を拒みつづけてきたプロテスタント教会にとっても、それぞれ服装についての長い伝統があると言うことだけでも覚えておいていただきたいと思います。それから、この世の結婚式場で行われているキリスト教風の結婚式が、キリスト教会の長い伝統を代表しているわけでもないと言うことも覚えておいていただければ幸いです。

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