BOX190 2004年11月24日放送     BOX190宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄 (ラジオ牧師)

山下 正雄 (ラジオ牧師)

タイトル: 「偽物カレンダー?」  千葉県  S・Iさん

 いかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会提供あすへの窓。水曜日のこの時間はBOX190、ラジオを聴いてくださるあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。

 それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は千葉県にお住まいのS・Iさん、男性の方からのご質問です。お便りをご紹介します。

 「山下先生、こんにちは。
 先日、友人と手帳を開いていますと、『そのキリスト教のカレンダー帳は偽物だ。だってイエスの命名日が載っていないじゃないか』といわれました。彼は聖公会のクリスチャンです。
 わたしの教会では1月1日を特にイエスの命名日として、イベントを行いませんが、聖書的にどのように解釈したらよいのでしょう。よろしくお願いします。」

 ということなんですが、S・Iさん、いつも番組を聴いてくださってありがとうございます。今回はキリスト教会のカレンダーについてのご質問ですね。
 「キリスト教」と一言で言っても、それぞれの教会が育んできた伝統の違いに、ずいぶんビックリすることがあります。カトリック教会とプロテスタント教会の違いについてはよく言われることがあります。プロテスタントの人が初めてカトリックの教会へ行けばその伝統の違いに驚くことがたくさんあるでしょうし、また逆にカトリックの人がプロテスタントの教会へ行けば同じように驚くことが多いでしょう。その両者がロシア正教会の伝統に触れれば、これまた違うものを感じるに違いありません。
 それぞれの教会が育ててきた伝統の違いはいろいろありますが、使っているカレンダーの違いもその一つだと思います。
 大変大雑把な言い方ですが、宗教改革の時代がはじまるまでは、西ヨーロッパはローマカトリック教会が唯一の教会でした。細かいことを言えばローカルな教会の暦もあったでしょうが、ローマカトリック教会は主イエス・キリストに関わる暦に関してはほぼ定まった教会暦(教会のカレンダー)を持っていました。「主イエス・キリストに関わる暦」といったのは、実はその当時のローマカトリック教会の教会暦では、その他に諸聖人に関わる暦も あったからです。
 このローマカトリック教会の教会暦の伝統は、諸聖人に関わる分部は別として、プロテスタント教会の一部にも引きつがれました。たとえば聖公会やルター派の教会ではローマカトリック教会のように教会暦を使った礼拝が守られて来ました。しかし、大半のプロテスタント教会では教会暦を教会の公式のカレンダーとして用いられなくなるようになりました。今日でも、大半のプロテスタント教会では、イースターとペンテコステとクリスマス以外の教会暦を使うと言うことがありません。
 S・Iさんがショックを受けられたカレンダー帳の違いと言うのは、この伝統の違いによるものなのです。

 きょうは教会暦に関することを取り上げていますが、カトリック教会や聖公会が出している手帳やカレンダーには「イエスの命名日」とか「主の御割礼の祝日」と呼ばれるものがあります。あるいは「イエスの聖名の祝日」と呼ばれるものがあります。ご質問を下さったS・Iさんやわたしは教会暦を守る伝統のない教会で育ってきましたから、これらの暦についてほとんど聞いたことがないかと思います。
 そもそも教会暦というのはイエス・キリストの生涯をモデルに組み立てられています。その大きな柱はキリストの誕生を祝うクリスマスと、キリストの復活を覚えるイースターです。歴史的にはキリストの復活を覚える習慣の方が早く始まりましたが、やがてクリスマスの方が より盛大に祝われるようになりました。
 イエスの生涯ということを考えると、当然誕生に始まり、十字架と復活、昇天へと進みます。教会暦もそのように進みます。その始まりは1月1日ではなくて、クリスマス、つまり12月25日を中心に考えられています。教会暦はキリストの誕生に先立つアドベントと呼ばれる日から始まります。なぜキリストの誕生日が12月25日なのかという問題はここでは取り上げないことにします。結論だけを言えば、その日付に歴史的な根拠があると言うわけではありません。ただ、「いろいろな経緯からそう定められたのだ」とだけ言っておきます。
 さて、ルカによる福音書には、イエスがユダヤ人の習慣に従って、生まれて8日目に割礼を受けたと言う記事が出てきます。ルカによる福音書2章21節です。そこにはこう記されています。

 「8日たって割礼の日を迎えたとき、幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である。」

 この記事によると、生まれて8日目に割礼を受け、同時にイエスと命名されたと言うことなのです。ですから、1月1日を教会暦では「イエスの命名日」とか「主の割礼の祝日」などと呼ばれるようになったのです。
 もっとも、この8日目の数え方ですが、普通わたしたちが日にちを数える時には翌日を1日目と数えますが、教会暦では誕生の日を1日目と数えます。ですから、12月25日から数えて 1月1日が8日目に当たるわけです。

 ところで、カトリック教会には「主の割礼の祝日」とは別の日に「イエスの聖名の祝日」を守る習慣があります。割礼の祝日はクリスマスから数えて8日目名のですが、「イエスの聖名の祝日」は「主の割礼の祝日」と 1月6日の「主の公現日」の間に来る日曜日に祝うようになりました。もっともカトリック教会が祝う「イエスの聖名の祝日」についての細かい定めが出来たのはずっと後の時代、 20世紀に入ってからのことです。

 さて、S・Iさんとしては、このような一部のキリスト教会の伝統に面食らってしまったことかもしれません。聖書の歴史と言うことから言えば、キリストの誕生日の日付が正確でない以上、それから 8日目がいつなのか、正確に言うことは出来ません。しかし、教会暦が目指しているものは、イエス・キリストを歴史的なカレンダーに当てはめることではなく、キリストのご生涯を一年間で覚え、瞑想することにあるのですから、その点を忘れてはならないと思います。

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