タイトル: 「ロウソクの色には意味が?」 東京都 K・Bさん
いかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会提供あすへの窓。水曜日のこの時間はBOX190、ラジオをお聴きのあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。
それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は東京都にお住まいのK・Bさん、男性の方からのご質問です。お便りをご紹介します。
「山下先生、はじめまして。わたしは長年教会に通うクリスチャンですが、改めて尋ねられて分からないことというものがいくつかあります。
実はわたしの教会ではもう何年も前からアドベント・キャンドルを灯す習慣が定着しています。実は一昨年、教会に初めて来られた方から、ローソクの色の意味について尋ねられたことがあります。ローソクを灯す意味については、何度かお話で聞いたことがありますので、それについてならばお話することができました。しかし、色については特に意味がないと思いましたので、別に意味がないと答えておきました。
ところが、去年はたまたま海外でアドベントの時期を迎える機会に恵まれ、礼拝に出席してみたところ、アドベントのローソクの色は三本が青で、一本がピンクでした。しかも、ローソクの数は四本だけではなく、真中に他とは大きさの違う白いローソクも立っていました。ところ変われば、習慣も随分違うものだと思いました。英語が堪能ならばその意味を尋ねることも出来たのですが、なにぶん引っ込み思案なわたしには、牧師にそれを尋ねる勇気もなく、こうして質問のお便りを出している次第です。
もし、ご存知でしたら、意味や習慣について教えていただければ嬉しく思います。よろしくお願いします」
K・Bさん、はじめまして。お便りありがとうございました。クリスマスのお話はもう季節的に随分前のことになってしまいますが、K・Bさんはロウソクのことがずっと気になっていたんですね。何気ないことでも普段から心に留めていると、それがきっかけとなって、色々なことを発見するものだと思います。
さて、K・Bさんのご質問を聞いていて、そもそもロウソクが登場したのはいつのことなのかと素朴な疑問を持ちました。ちなみに灯心をもった蝋燭の原型が登場するのは一般にローマ帝国時代になってからだといわれています。もっともその時代の蝋燭は蜜蝋ではなくて牛や羊などの動物の油脂を原料としたものでした。ハチが巣を作るときに分泌する物質である蜜蝋を原料とした蝋燭が登場するのが中世の時代になってからです。それも非常に高価なものであったため、一般の家庭で使われることはなく、もっぱら宗教的な用途に用いられました。日本でも仏教の伝来と共に蜜蝋の蝋燭が伝わってきたといわれていますが、記録に残っているのは8世紀のものです。その後19世紀半ばになってパラフィンを使った今日の蝋燭が出来上がり、やっと一般の家庭にも普及するようになります。
聖書には蝋燭という言葉は出てきません。確かに、17世紀に翻訳された欽定訳聖書には「キャンドル」と言う言葉が出てきますが、現代語訳の聖書では「ランプ」と訳されています。聖書に出てくる「燭台」というもの、蝋燭を置くための燭台ではなく、ランプを置くためのものです。新約聖書に出てくる教会で果たして礼拝の中でランプや松明が使われたかどうか、実はそれすらはっきりとした証拠があるわけではありません。
さて、後半ではもう少しアドベントの蝋燭のことを見てみたいと思います。
その前にここで一曲聞いていただきたいと思います。
==放送では、ここで1曲==
さて、アドベントの蝋燭の色についてのご質問を取り上げています。前半では蝋燭の歴史について見て来ましたが、わざわざ歴史について見てきたのは、ひょっとしたら、アドベントの蝋燭の歴史は案外新しいものではないかと思ったからです。そもそも、蜜蝋で蝋燭を作っていた時代に、蝋燭をいろいろな色に染める事などしたのかどうか、それすら疑問です。いろいろと調べては見ましたが、いったいいつの時代から蝋燭に色をつけるようになったのか、はっきりとしたことは分かりませんでした。ただし、パラフィンの蝋燭が出回る前は、蝋燭の色を白くするために八日から10日間ほど外に釣っておいたそうですから、わざわざ白い蝋燭が好まれた時代に色つきの蝋燭を作ったとは思えません。
ところで、K・Bさんからの質問を受けて、アドベント蝋燭の色について調べてみましたが、伝統的に3本の紫と1本のピンクが用いられるようです。紫を使う理由は、アドベントの典礼色から来ているからです。紫は王位を象徴すると同時に悔い改めをもあらわすといわれています。その中で、1本の蝋燭だけがピンク色である理由は、それがアドベントの第3主日に灯される蝋燭だからです。典礼文を使って礼拝を守る教会では、この日の入祭文は「喜びなさい」と言う言葉で始まるフィリピの信徒への手紙4章4節以下の言葉が朗読されます。それで、この日は喜びの日と呼ばれ、この日だけ、喜びを表すピンク色に典礼色を変えることになっています。蝋燭の色を変えるのはその伝統から来ているわけです。
では、一体いつからこのような色の蝋燭をアドベントの時に使うようになったのか、という話ですが、先ほども蝋燭の歴史を見てきたように、蝋燭自体の歴史がそれほど古いものではありませんし、蝋燭に色つけをするようになったのもそんなに古い歴史のあるものとは思えませんから、せいぜい19世紀に入ってからではないかと推測しています。
それも、アドベントを覚えて蝋燭を灯す習慣はもともとはクリスマスを覚えるためにドイツの家庭で始まったのが最初で、教会の行事として行っていたわけではありませんでした。そもそも、19世紀末のドイツではアドベントカレンダーとならんで、アドベントキャンドルを灯す習慣があったようです。その場合のアドベントキャンドルと言うのは今日のような四本の蝋燭ではなく、12月1日から24日にかけて、毎晩1本ずつ灯して、クリスマスの日の到来に備えるというものでした。それがいつのころからか4本の蝋燭に省略されるようになったのではないかと考えられます。ただし、その辺りの歴史は詳しく調べたわけではありませんから、確証があるわけではありません。教会の礼拝の中でアドベントキャンドルを使ったり、それを典礼色の色とあわせたりし始めたのは、思ったよりも歴史が浅いのかもしれません。案外教会の古い伝統だと思っているのが、調べて見るとせいぜい1世紀ぐらいの歴史しかないものが他にもあるのかもしれません。
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