2016年9月27日(火) 小さな朗読会205「美しい王妃エステル」(「母と子の聖書旧約下」107章)

 ここで、ユダヤにもどらなかったユダヤ人たちに起こったおもしろい物語になります。
 5万人ほどのユダヤ人が国にもどりましたが、何かの理由のため、帰らなかった人もたくさんいました。これらの人々は、大ペルシャ王国のあちこちに住み、どこにいっても自分たちの偉大な神を知る知識をもっていきました。
 この話の起こったころ、ダリヨス大王はすでに死んでいました。そして、息子のアハシュエロスすなわちクセルクセスが国を治めていました。アハシュロス王は、父のように賢い、神さまを恐れる王ではなく、愚かで弱い人でした。
 帝都の首都は違う町に移されていました。バビロンの豪華さはくずされていました。90メートルの高さもあった城壁はくずされ、百個の門はもち去られ、町全体が崩壊していました。
 新しい首都のスサは、バビロンよりも、もっと豪華でした。アハシュエロス王は、そこでひじょうにはなやかな生活をしていました。この町から彼は、東はインドから、西はエジプト南部のエチオピヤまでを治めました。それはアメリカ合衆国ぐらいの大きさの国でした。
 治世の3年目に、アハシュエロスは自分の国の各領土の大臣や侍臣たちのためにスサで大酒宴を開きました。
 何とすばらしい集まりでしょう。
 インドからは、すばらしい、ししゅうをされた絹の衣をつけ、ダイヤ、ルビー、真珠などのまばゆい宝石をちりばめた大臣たちがきました、彼らは、象の背中高く乗せられた、カーテンのある椅子にすわってやってきました。
 アラビヤからは、その速い馬に乗って、飛ぶように、たけだけしいアラブ部族の人たちがきました。重い銀のくさりがその首から垂れています。 エチオピヤからは、頭に大きなターバンを巻き、王のためにすばらしいおくりものをもった黒人たちがきました。そのほか、王の命令に従って、大ぜいの大臣が、帝国のあらゆるところからきました。
 半年のあいだ、アハシュエロス王は、自分の町でこの大臣たちを接待し、その王国のすばらしさを見せました。そして最後に、スサの町のすべての人のためにごちそうをふるまいました。老いも若きも、金持ちも貧乏人も、偉い人も貧しい人も、みな呼ばれました。
 このために、宮殿の庭は美しく飾られました。白と青色のとばりが、紫と白の細ひもで、大理石の柱につながれた銀の輪にむすばれていました。床は赤、青、黒、白の大理石のきりはめ細工になっており、客が休むための金や銀の長椅子もありました。たくさんの酒が金や銀の杯につがれました。
 宮廷の酒宴には、都の男の人だけが出席しました。このころのこの国では、男女がいっしょに集まることはなかったからです。男の人のいる部屋に女の人は決してはいってきませんでしたし、町を歩くときには、女の人は必ず顔を長いヴェールでおおいました。
 王が庭で都の男の人たちを接待しているあいだ、妻のワシテ王妃は、宮殿のなかで、婦人たちのためにごちそうをしていました。このお祝いは1週間続き、みんなたいそう陽気でした。しかし、まもなく、問題が起こってきました。

 酒宴の7日目に、酒を飲み過ぎたアハシュエロス王は、王妃が婦人たちを接待していた広間に、自分の家の家来7人をつかわしました。王は家来たちに、民にも大臣にも、王妃の美しさを見せるため王妃の頭に冠をつけて、庭にお連れするように命じたのです。
 もし、王が酔っていなければ、こんなことを要求しなかったでしょう。大ぜいの男の人にながめられるため、顔をおおいもしないで、慎み深い王妃が庭にでてくるはずがないことは、王にわかっていたことです。
 ワシテ王妃が、庭にでるのをことわったといって、家来たちはもどってきました。王はたいそう怒りました。王は、「王妃ワシテは、王の命令を行わないから、彼女にどうしたらよかろうか」といって、7人の知者に相談しました。
 みなは、王を大そう恐れていました。王には、自分の気にいらないものの首を切ることができたからです。家来たちは、王が悪酔いしているときは、いつもおびえていました。
 7人の知者は王妃のほうが正しいことを知っていましたが、彼女は罰を受けるべきだといって、王に同意し、王をなだめようとしました。
 彼らは、「王妃はただ王に向かって悪いことをしたばかりでなく、すべての大臣や民に向かってもしたのです。王妃のこの行ないを聞いたペルシャとメディアの大臣の夫人たちもまた、これを聞いて、その夫たちに同じようにするでしょう。
 もし王がよしとされるならば、ワシテは王に従わなかったので、もはや王妃ではないという命令をおだしください。そして王妃の位を彼女にまさる他の者に与えなさい。このことがこの大きな国にあまねく告げ知らされるとき、妻たるものはことごとくその夫に従うようになるでしょう」といいました。
 アハシュエロス王はこの進言を好ましくおもい、国の各所に、そこの国の言葉で、次のような手紙をおくりました。
 すべての男子たる者は、王の命令により、その家の主となるべきである。
 それから家来たちは王に、「どうぞ王はこの国の各州で役人をえらび、国のもっとも美しい若い娘を集めさせ、こうして王の心にかなう娘をとって、ワシテのかわりに王妃としてください」といいました。
 王はこれはよい考えだと思い、家来たちに若くて美しい娘を方々でさがすように、命令しました。

 さて、スサに、モルデカイというユダヤ人が住んでいましたが、そのいとこに、エステルという、若くて美しい人がいました。エステルの父母は死んでいたので、モルデカイは彼女を自分の娘のように育ててきました。
 エステルは、王妃の候補者のひとりとして、宮殿に連れてこられる娘のひとりにえらばれました。彼女は自分がユダヤ人であることを告げませんでした。
 帝国の各所から、美しい若い娘たちが大ぜいスサに集められました。そしてしばらく宮殿に住んだあとで、ひとりひとり王のまえに連れてこられました。やがて、エステルのでる番になりました。王は、ほかのだれよりも彼女を愛しました。そこで、王は彼女の頭に冠をのせ、ワシテの代わりに王妃としました。
 モルデカイは毎日、エステルの様子をうかがいに婦人の部屋の庭のまえを歩きました。こうして宮殿のまわりにいるあいだに、モルデカイは、王を暗殺しようとした二人の家来の計画を発見しました。
 エステルがアハシュエロスに警告できるように、モルデカイは、耳にしたことをエステルに話しました。計画はあばかれ、二人は処刑されました。モルデカイのしたことは、メディヤとペルシャの王の記録に書かれましたが、王は、自分の生命を助けてくれた人に報いることを忘れてしまいました。