2016年7月26日(火) 小さな朗読会203「バビロンの陥落・ししのおりのなかのダニエル」(「母と子の聖書旧約下」103-104章)

 ネブカデネザルの死後30年ぐらいして、ベルシャザルという王がたちました。この新しい王は、神さまにつかえていませんでした。彼は、ダニエルがネブカデネザル時代についていた高い地位を、ダニエルから奪いました。
 この王が何年か治めたあと、彼は自分のすばらしい宮殿で、1千人ほどの大臣たちを呼び、酒宴をもうけました。それは、人々が食卓で横になっても千人くらいはいれるほど広い広間でした。ベルシャザルは、エルサレムの神殿から奪ってきた金と銀の皿を使ってみる気になりました。へブル人の神に使われた、美しい皿を使えば、酒宴はいっそう、豪華になると彼は考えたのです。

 王と大臣たちは、神殿の器で酒を飲みながら、自分たちの異教の偶像をほめました。彼らは、自分たちの金や銀の神々のおかげでイスラエル人を征服できた、と考えていたのです。
 こうして飲んでいるとき、ふしぎなことが起こりました。大きなろうそくが光っているいちばん明るいところの壁に、人の手のゆびが現れたのです。
 大広間にいた人はみな、その手を見ました。光に照らされて、はっきりと見えました。みなは飲むのをやめて、驚いて目を見はりました。質問のうずが起こりました。「あれは何でしょう。どうしてこんなところに?」
 みんなが恐ろしさにじっと見ていると、ゆびは、壁にどこかわからない国の言葉で字をかき始めました。だれにもその言葉の意味はわかりませんでしたが、何か恐ろしいことが書かれているとみな感じました。
 王はすっかり酔いがさめてしまいました。ヘブル人の神の宮の宝物をとって自分の酒宴につかったのが悪かったのだと、わかりました。恐れのあまり、彼の足はがくがくしてきました。彼は倒れそうになりました。やがて、気をもちなおし、大声で、「法術士や占い師を呼び、この文字をよませなさい」と命令しました。
 さらに、けしかけるように「この文字を読み、その解き明かしを示す者には紫の衣を着せ、首に金の鎖をかけさせて、国の第三のつかさとしよう」といいました。
 使者たちは、急いで広間にやってきました。彼らは首を振りながら、長い間、壁の字に見入りました。誰にも読めません。ベルシャザル王は、いっそう怖くなってきました。その顔は真っ青になり、恐れで震え始めました。おそらく神さまがネブカデネザルの高慢を、どのように罰したかを思い出したのでしょう。こうして、すっかり恐怖のとりこになり、じっと座っているところに、王妃がやってきました。彼女は、「王よ、どうか、とこしえに生きながらえますように。そんなに恐れてはなりません。あなたの国には、聖なる神の霊が宿っている、一人の人がおります。ネブカデネザルの世に、彼は、知識、分別があって、夢を解けることを表しました。彼は、使者の長とされていました。ですから、ダニエルを召しなさい。彼は、その解き明かしを示すでしょう。」と言いました。
 ダニエルが呼ばれました。王は彼に、「あなたが我が父が、ユダから引き連れてきた、ユダの捕囚の一人なのか。聞くところによると、あなたのうちには、聖なる神の霊が宿っていて、夢を解く力があるそうだ。使者、法術師たちは、この文字を読むことができなかった。それであなたがもし、この文字を読み、その解き明かしを示すことができたら、あなたに紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけて、この国の第三のつかさとしよう。」と言いました。ダニエルは「あなたの賜物はあなたご自身にとっておくか、他人にお与えください。わたしは、王のためにその文字を読み、解き明かしをお知らせいたしましょう」とこたえました。

 それから、ダニエルはふしぎな文字を解きました。「王よ、いと高き神は、あなたの父ネブカデネザルに国と権勢と光栄と尊厳とを賜いました。民はみなそのまえに従いました。彼は欲するままにしましたが、心に高ぶったとき、彼は王位からしりぞけられ、人から追われ、獣のようになりました。彼は牛のように草を食い、身は天から下る露にぬれ、こうしてついに彼は、いと高き神が人間の国を治めて、意のままに人を立てられることを知るようになりました。
 あなたは、これらのことをみな知っていながら、家来たちに、主の宮の器をもちださせ、大臣たちと、それで酒を飲みました。そして、あなたは見ることも聞くこともできない金や銀の神々をほめました。あなたの神々は何も知りません。あなたにいのちと、すべてのものを与えるのは主です」とダニエルはいいました。

 このきびしい言葉をダニエルが語っていると、壁の手は消えました。ダニエルは王に文字の意味を語りました。
 「神はあなたの治世を数えて、これをその終わりに至らせられました。あなたははかりに量られて、その量りのたりないことが明らかになりました。あなたの国は分割され、メデアとペルシャの人々に与えられます。」
 これは嬉しい解き明かしではありませんでしたが、王はその約束をおぼえていました。彼は家来に、紫の衣と、重い金の鎖をダニエルのためにもってこさせました。そして、王は大臣たちのあいだに立って、ダニエルが国の第三のつかさになることを布告しました。
 壁に書かれた文字をダニエルが解き明かしたあと、酒宴はまだ続けられましたが、だれも飲んだり食べたりする気にはなれませんでした。来客は、壁の文字のことを話しあいました。危険がせまっているのを、みな知っていました。

 バビロンのはるか東方のペルシャ王国に、クロスという王がいました。この新しい強い王は、方々の国を征服していました。まず第一に、彼は隣のメデアを攻めました。次に、ベルシャザルの国バビロンに向かい、これを自分のものにしました。ただバビロンの町だけは、強くて丈夫な城壁にかこまれていたため、まだ陥落させることができませんでした。
 ペルシャ王クロスは、どんどんまわりの国々の征服を続けました。その王国は、かつてのネブカデネザルの国の3倍も大きくなりました。バビロンだけが、彼に立ち向かっていました。
 クロスは自分の兵を、町の高くて頑丈な城壁のまわりに集めて、これを攻めました。兵隊たちは、壁をこわすことも、のりこえることもできません。また、まだ20年間は保つほどのたくさんの食糧が町にたくわえてあるのを、知っていましたから、町の人々が飢えるのを待つわけにもいきません。また、水が不足するということもありません。大きなユフラテ川が、壁の下をとおって、町のなかを流れていたのです。
 高い城壁のなかで、バビロンの人々は、すっかり安心していました。大臣たちは、クロスが絶対に町にはいれないと確信していたので、恐れずに、ベルシャザルの酒宴に集まってきていたのです。
 ところが、酒宴の最中に、クロスの兵は、川のために新しい川床を堀り、水を新しい川床に流していました。そして、高い壁の下の、乾いた川の溝をつたって、静かに町にはいってきました。

 酒宴では、人々は文字を見、その意味を聞き、もう楽しむどころではありません。
 はて、あれは何の音でしょう。ラッパでしょうか。兵隊たちの行進の足音でしょうか。クロスの兵が町に侵入してくることなど、あるでしょうか。
 兵隊たちの足音がどんどん近づいてきます。おびえた大臣たちは、大広間から逃げようとしました。
 しかし、もうおそすぎました。宮殿はペルシャ軍にかこまれ、逃げ道がありません。来客たちは広間で殺され、ベルシャザル王もいっしょに殺されました。
 壁に、あんなふしぎな方法で与えられた警告は実現されました。神さまはこの王国を終わらせ、メデヤとペルシャに与えられたのです。
 もっと古い預言が同時に成就しました。何年もまえに、エレミヤはバビロンの陥落を預言していました。この夜、バビロンは永遠に滅びたのです。そして、世界で最大の征服者、ペルシャのクロス王によって治められる、もっと大きい王国の一部となりました。

 ペルシャ人がバビロンを占領したことは、捕囚となっていたイスラエル人にとっては、幸いなことでした。この人たちは、他の異教国の偶像礼拝とは全然違った、もっと高尚な宗教を信じていたので、バビロン人よりずっと親切でした。
この宗教の元祖は、ゾロアスタという人で、考えて真理を見いだそうと、20年間、山にひとりで住んだ人でした。
 彼は、たくさんの偶像神ではなく、唯一の偉大な神を信じ、何人かの天使がこの神を手伝っていると考えました。また、悪い霊を手下にもつ一つの悪霊の存在も、信じていました。
 ゾロアスタは、自分の教えに従うものに、正しい生活をすすめました。これはいつかは、人がどのように生活したかに従って、罰せられたり報いられたりする審判の日がある、と確信していたからです。

 ゾロアスタは、最初に捕えられたイスラエル人からならって、こういう考えをもつようになったのかもしれないと考えられています。偶像を礼拝したために捕われの身となった十部族のなかにも、神さまに忠実なものが何人かいたことでしょう。あるいは、捕えられたユダヤ人が唯一の偉大で善なる神や、天使、サタン、大いなる審判の日について話しているのを、ゾロアスタが耳にはさんだのかもしれません。いずれにせよ、こういう信念のため、ペルシャ人は立派な親切な民でした。
 大ペルシャ帝国は、ひとりの人によって治められるには大きすぎました。クロスは、62才のダリヨスという人を、バビロンの王座につかせ、帝国のそちらのほうを、自分に代わって、治めさせました。
 ダリヨスが王座についたときには、すでに老人で、3年後には死にました。しかし、この短いあいだに、大へん重要なことがダニエルに起こりました。
 ダリヨスは、自分の国を小さく分割して、そのおのおのをそれぞれの総督に治めさせました。この総督の上に彼は三人の総督をおきましたが、その総督の長に、彼はユダヤ人捕りょのダニエルを任命したのです。

 ダニエルが、重要な役にえらばれるのは当然のことでした。彼の知恵も、その善良さもよく知られていました。また着せられた紫の衣は、彼が身分の高い人であることを示していました。
 ところが、ユダヤ人であるダニエルが他の総監の上にたてられると、他の総監や総督たちはこれを非常にねたみました。何とかして、彼を窮地におとしいれよう、と考えました。そして、ダニエルのすることに、難くせをつけようと見ていたのですが、ダニエルがあまりに忠実なので、彼らはまもなく、それを諦めました。

 やがて、ダニエルを困らせることを一つ考えつきました。彼らはダニエルが、その神の熱心な礼拝者であることを知っていました。彼らはお互いに、「彼の宗教に関して訴える口実を得ることだけが、彼を訴える道だ」といいました。
 これが彼らの計画したわなです。
 総督たちはみな、ダリヨス王のところにいきました。そして、「ダリヨス王よ、どうかとこしえに生きながらえますように。国の指導者たちはみな、王に、一つの禁令を定めていただくことを求めることにしました。すなわち、30日のあいだ、あなた以外の人または神に祈るものがあれば、だれでもししの穴に投げ入れる、ということです」といいました。
 王は喜びました。総督たちが、王の力を民に知らせようとしているのだと思ったのです。彼らの願いの裏にあるものにはまったく気づきませんでした。
 「それで王よ、その禁令を定め、文書に署名して、メデアとペルシャの変わることのない法律のひとつにしてください」と総督たちはいいました。
 ダリヨスは、その法律を悪いと思いませんでした。何の疑いもはさまず、彼は禁令に署名しました。

 ダニエルは捕われのあいだじゅう、エルサレム神殿をささげたときのソロモンの祈りをおぼえていました。神さまは、もし捕われのとき、民が悔い改めて、神の選ばれた都に向かって祈るならば、その祈りを聞きいれると約束されたのでした。
 毎日、3回、ダニエルはエルサレムの方に向かってへやの窓をあけ、ひざまずいて、主に祈りました。総督たちはもちろん、このことを知っていたればこそ、これでダニエルを困らせようとしたのです。
 ダニエルはまもなく、総督たちのしたことをききました。禁令は署名されたので、たとえ王であっても、それをかえることができないことも知っていました。ダニエルは、自分のすることが必ず死に通じることも、わかりました。それでも彼は自分の部屋にいき、エルサレムの方へ窓をあけ、ひざまずいて神さまに祈りました。
 王に禁令の署名をすすめた人たちは、大喜びでした。「これでよし」と彼らは叫びました。
 彼らは王のもとに急ぎ、「王よ、とこしえに生きながらえられますように。あなたは禁令に署名して、30日のあいだ、あなた以外の神または人に祈ったものは、ししの穴に投げ入れると、定められたのではありませんか」といいました。
 王は、「そのとおりだ。メデアとペルシャの法律のひとつだから、変えることはできない」とこたえました。
 「王よ、とこしえに生きながらえますように」と総督たちは、勝ちほこったようにいいました。「ユダから引いてきた捕囚のひとりであるあのダニエルは、あなたの禁令をかえりみず、一日に三度ずつ彼の神に祈りをささげています。」
 これを聞いたダリヨスは、あの禁令に署名するようなばかなまねをしてしまったことを、たいそう後悔しました。王は、ダニエルがよい人であるのを知っていました。ダニエルを救う道はないかと、一日じゅう考えました。

 総督たちはふたたび王のところにきて、「王よメデアとペルシャの法律によれば、王の立てた禁令は変えることのできないものであることを、ご承知のはずです」といいました。
 王はそのことを知っていました。ダニエルをどうしても助けることかできません。禁令には署名がされていて、変えられません。王はダニエルを連れてくるように命じました。たいへん悲しみながら、ダニエルに、「どうか、あなたの常に仕える神が、あなたを救われるように」といいました。

 王の兵士たちは、ししの穴の入口をあけ、ダニエルを投げ入れました。大きな石が入口のところにおかれました。王は気のりがしないまま、だれもその石を動かさないように、自分の印で封印しました。
 王は、悲しみのうちに宮殿に帰りました。豪華な夕食もとりませんでしたし、いつものように、楽士たちが音楽をひきにきても、彼らを返してしまいました。
 やがて、ダリヨスは床につきました。しかしねむれませんでした。一晩中、寝返りをうち、その夜は一睡もできませんでした。
 一方、ダニエルをししの穴に投げ入れることに成功した人たちは、上機嫌で家に帰りました。「あれでダニエルはもうおしまいだ。二度と彼にわずらわされることはない」と、彼らはお互いにいいました。

 ところで、ダニエルはどう夜を過ごしたでしょう。飢えているししは、彼を食い裂いたでしょうか。
 ダニエルは無事でした。神さまはししに、ご自身のしもべを傷つけることも、いいえ、恐れさせることさえゆるされませんでした。天からみ使いがくだり、ししの口を閉ざしたのです。
 おそらく、ししはダニエルのところにきてからだをなすりつけ、ダニエルがししをなでると、大きな猫のように、喜んでのどをならしたことでしょう。たぶん横になって、その柔らかいからだにダニエルをよりかからせてくれたでしょう。きっと、ダニエルは一晩中ねむったことでしょう。自分が完全に安全であることを、ダニエルは知っていました。

 宮殿の窓から、夜が白んできたのがわかると、一晩じゅう一睡もせずにいて疲れた王は、起きて、服に着かえると、ししの穴に急ぎました。王は心配と疲労で、あおざめていました。
 穴につくと、王はかなしげに、「生ける神のしもべダニエルよ、あなたが常に仕えている神は、あなたをししから救うことができたか」といいました。
 王は不安げに待ちました。恐ろしいししのうなりしか、こたえてこないのでしょうか。
 ダニエルの声が、はっきりと、そして力強く返ってきました。「王よ、どうか、とこしえに生きながらえますように。わたしの神はその使いをおくって、ししの口を閉ざされたので、ししはわたしを害しませんでした。」

 王はたいへん喜びました。彼はダニエルを穴からだすように命じました。それから、家来たちに、ダニエルにわなをしかけた人たちを連れてこさせ、穴にほうりこませました。飢えていたししは、その人たちが穴の底にとどくまえにもう飛びかかってきました。
 ダリヨス王は、ダニエルの神こそ、ゾロアスタの教えた神に違いない、と確信しました。そうでなければ、だれにこんなすばらしいことができましょう。

 王は、以前のよりもはるかによい法令をだしました。そのなかで、王は、あらゆるところにいるすべての人に、ししの力からそのしもべを救われたダニエルの神を礼拝するよう、命令したのです。
 ダニエルは、王国で重要な人物になりました。神さまがともにおられたからです。3年後ダリヨスの死とともに、クロス大王がここの王座に座しましたが、ダニエルはなお栄えました。
 神さまは、未来に起こるいくつかの出来事にかんする幻をダニエルにあらわされました。そして、ダニエルの信仰のおかげで、神さまがダニエルを愛していつもともにおられることを、天使をとおして、ダニエルに伝えられたのです。