2015年5月26日(火) 小さな朗読会189「やさしい預言者エリシャ(2)」(「母と子の聖書旧約下」85章)

 イスラエルの北にスリヤの国がありました。ここはベネハダデの治めていた国です。この人は何年間も王位に着き、何回かイスラエルと戦いました。二度、彼とスリヤの軍勢は、アハブのもとでイスラエル軍に破られました。この二国間のもう一つの戦いでは、アハブが殺されました。
 しかし、ヨラムがイスラエルの王になってからは、ベネハダデと平和が続きました。ときにはスリヤ人が群れを組んで、イスラエル人の財産を盗みに来たものの戦いはありませんでした。ベネハダデの軍勢の長は、ナアマンという人でした。彼は大そう気に入られ、また神様はナアマンがスリヤの敵を多く征服するのを助けられました。それなのにこの将軍は、あの恐ろしい病気、重い皮膚病にかかっていました。

 この話の始まる少し前に、一群のスリヤ人がイスラエルの北部に行って、一人の少女を奪ってきました。彼女はナアマンの家の召使いになり奥さんに仕えました。二人は少女に親切だったので、少女は自分の主人たちを愛していました。
 ある日、少女は奥さんに「ああ、ご主人がサマリヤにいる預言者と共におられたら良かったでしょうに。彼はその重い皮膚病を癒したことでしょう。」と言いました。少女の言葉は王に伝えられました。今まで誰も重い皮膚病を治せる人を知らなかったので宮殿でも大騒ぎになりました。ベネハダデはとうとう自分の将軍に「サマリヤにあなたの重い皮膚病を治せる預言者がいるということが本当ならそこに行きなさい。私はヨラム王に手紙を書きましょう。」と言いました。

 そこで、ナアマンはサマリヤに行きました。彼は、1700万円相当の金と銀と10枚の美しい絹の衣を土産に持って行きました。彼は預言者がどこに住んでいるのか知らないので、エリシャの所には行かないで、イスラエルの王の所に行き、ベネハダデの手紙を渡しました。その手紙には「この手紙があなたに届いたならば、私の家来ナアマンをあなたに遣わしたことをご承知ください。あなたに彼の重い皮膚病を癒していただくためです。」とありました。ベネハダデ王は、もしヨラム王に重い皮膚病の癒せる預言者があるなら、預言者は王の宮殿に住んでいることと思ったのです。
 ところが、ヨラム王はエリシャについてあまり知っていませんでした。この手紙を受け取ってびっくりしました。なぜ、ベネハダデ王が自分の所にナアマンをよこしたかわかりませんでした。自分に不治の病を治すことは出来ません。彼は、ベネハダデ王がケンカの種をまきに来たのだと思いました。ヨラム王は困って衣を裂きました。
 サマリヤの人は皆自分たちの王がスリヤの王ベネハダデからもらった手紙のことを聞きました。エリシャもまたナアマンが重い皮膚病を治してもらいにイスラエルの王の所に来たことを聞きました。彼はヨラムに、「彼を私のもとに来させなさい。そうすれば彼はイスラエルに預言者のあることを知るようになるでしょう。」と言って使者をやりました。

 立派な馬と見事な車に乗ってナアマンはエリシャの家に来ました。預言者はナアマンを迎えに出てきませんでした。彼は一人の使いを出して、「あなたはヨルダンへ行って七たび身を洗いなさい。そうすればあなたの肉はもとにかえって清くなるでしょう。」と言わせました。ナアマンは偉い人でした。彼は裕福で人々に敬われていました。こんなに冷淡に扱われたのはこれが初めてです。彼は、「私は彼がきっと私のもとに出てきて立ち、その神、主の名を呼んでその個所のうえに手を動かして重い皮膚病を癒すのだろうと思った。ダマスコの川はイスラエルの全ての河川にまさるではないか。私はその川に身を洗って清まることは出来ないのであろうか」と憤慨しながらエリシャの家を離れました。

 ナアマンの家来たちは、ナアマンが怒っているのを見て悲しく思いました。彼は親切な主人だったからです。彼らはナアマンを愛し治ってほしいと思っていました。彼らは「わが父よ。預言者があなたに何か大きなことをせよと命じても、あなたはそれをなさったでしょう。まして、彼はあなたに『身を洗って清くなれ』というだけではありませんか。」と言って何とかナアマンの機嫌を直そうとしました。

 ナアマンもとうとう折れました。彼は車の御者にヨルダン川に行くように命じました。ナアマンは、着物を皆脱ぎ、川に入り、七回身を沈めました。それから自分の身体を見るとどうでしょう。重い皮膚病がすっかりなくなっています。彼の皮膚は死んだように白かったのが、幼児の皮膚のようにバラ色をしているではありませんか。
 ナアマンは、この信じがたい癒しはエリシャの神の働きによるものだと思いました。彼はイスラエルの神の力についていろいろな話を聞いていました。これで主こそ本当の唯一の神であると確信しました。

 彼は家来たちと一緒にエリシャの家に戻りました。ナアマンは預言者に「今は、イスラエルのほか、全地のどこにも神のおられないことを知りました。ですからどうぞしもべの贈り物を受けてください。」と言いました。エリシャは断りました。主のされたことの為にお礼をもらいたくなかったのです。癒したのは主であることをナアマンに知ってほしかったのです。
 ナアマンにはそれが理解できました。彼は主なる神以外の神に決していけにえや燔祭を捧げないと約束しました。「私の主人がリンモンの偶像の宮に行く時、私も行かなければなりませんが、どうぞ主がこのことをお許し下さるように。私は心からでなく、ただ身をかがめるでしょう。心では全世界に神は唯一であることを知っています。」とナアマンは言いました。
 やがてこの大将軍は、エリシャに別れを告げ、預言者も「安んじて行きなさい」と言って送り出しました。

 さて、エリシャの家来のゲハジは「主人がナアマンの持ってきた贈り物を受けなかったのは惜しい。私は彼の後を追いかけて、彼から少し物を受けよう。」と独り言を言いました。ゲハジは。スリヤ人の後を追いました。エリシャのしもべが自分の後を追っているのを見たナアマンは、エリシャが自分に用があるものと思って車を止め、「変わったことがあるのですか。」と尋ねました。ゲハジは「無事です。しかしたった今、預言者の仲間である二人の若者が来ました。主人は彼らに銀1タラントと晴れ着2着を与えてくださいと言っています。」と答えました。ナアマンはこれを聞いて喜びました。彼は「1タラントでは足りないから、どうぞ2タラント受けてください。と勧め、ゲハジに銀の入った袋を二つと、美しい絹の着物を2着与えました。
 この2袋にどれ位のお金が入っていたと皆さんは思いますか。百万円以上入っていたのです。ナアマンはお金を運ぶのに自分の家来を二人手伝わせました。ゲハジはこの2袋をエリシャの家には持って行かせませんでした。いいえ、彼は丘に来たときに家来たちを帰し、秘密の場所に隠しました。彼は二人の家来をナアマンの所に帰し、何事もなかったような顔をしてエリシャの家に帰りました。
 「ゲハジよ。どこに行ってきたのか」と預言者は聞きました。「しもべはどこへも行きません。」とゲハジは答えました。エリシャは「ナアマンが車を止めてあなたを迎えた時、私の心はあなたと一緒にそこにいたではないか。これらの贈り物を受けてよいものであろうか。だからナアマンの重い皮膚病はあなたにつき、長くあなたの子孫に及ぶであろう。」と答えました。ゲハジは部屋から出ました。彼は重い皮膚病になったのです。その皮膚は雪のように白くなっていました。