2013年10月22日(火)小さな朗読会170「ダビデとサウルについての物語のつづき」(「母と子の聖書旧約下」71章)

 サウルは、ダビデにもう危害を加えないという約束を守りませんでした。あるいはダビデの隠れているまわりの人々が口を出さなかったならば守っていたかもしれません。しかし、これらの人々はダビデとその従者に好感を持たなかったので、王にその隠れ場所を告げました。そこでサウルは3000人の兵を連れて、荒野にダビデを探しに出かけました。まもなくダビデの斥候は、王が再び彼を探しているという情報を持ってきました。

 ある晩、ダビデとその家来の一人は、サウルたちの寝ている場所に出かけました。神様はサウルの兵隊たちをぐっすり眠らせられました。ダビデとその従者がそっと陣営に忍び込んできた時、誰も目を覚ましませんでした。サウル王もぐっすり眠っていました。王の槍は、枕もとの地面の水のびんの傍に突き刺してありました。王の兵の指揮者アブネルも、王の側で寝ていました。
 ダビデの仲間はそっと、「神様は今日敵をあなたの手に渡されました。どうぞ私に彼の槍を持って一突きで彼を地に刺し通させてください。再び突くには及びません。」と言いました。しかしダビデは、「彼を殺してはならない。主が彼に油を注がれ王とされたのである。私は主に油を注がれた方を殺すことはできない。いつかは戦いに倒れるかもしれないし、あるいは平和に死ぬときが来るでしょう。私は彼を殺しません。」と言いました。

 サウルの槍と水のびんを持ってダビデとアビシャイは、少し離れた丘の頂上に立ちました。そこでダビデは王の兵の指導者であるアブネルに「アブネル、アブネル、私の声が聞こえるか。あなたは王の兵の中でも一番勇敢だと思っていたのに、どうしてあなたは、主君である王を守らなかったのか。誰かがあなたの主君である王を殺そうとして入り込んだではないか。あなたは十分に任務を果たしていない。王の枕元にあった槍と水のびんがどこにあるかを見なさい。」と呼びかけました。

 ダビデの声を聞いたサウルは「わが子ダビデよ、それはあなたの声か。」と聞きました。「王、わが君よ、私の声です。わが君は、どうしてしもべの後を追われるのですか。あなたは私を主の国から異教の国に追い出されました。どうして私のようなつまらない者を追われるのですか」とダビデは答えました。サウルは自分の間違っていたことに気づきました。そして、「私は罪を犯した。わが子ダビデよ、帰ってきてください。今日折があったのに私を殺さなかったから、私は二度とあなたに害を加えない」と言いました。ダビデは、「王のやりはここにあります。若者を取りによこしてください。今日私があなたの命を重んじたように、どうぞ主が私の命を重んじて、もろもろの苦難から救い出してくださるように。」と答えました。

 ダビデの立派な人柄を見せつけられたサウルは、「わが子ダビデよ、あなたはほむべきかな。あなたは多くのことを成し遂げるであろう。」と叫びました。サウルはダビデに害を加えないで戻りましたが、まだ信用はできません。既に約束を一度破っています。「イスラエル人の国に残っていれば、サウルはいつかは私を殺すでしょう。早くペリシテ人の地に逃れるのがいちばんよい。私が国を出たとサウルが聞けば、私を探すのをやめるでしょう。」とダビデは心に思いました。ダビデは自分の従者600人と、その妻子と、持ち物全部を持ってペリシテ人の国に行きました。

 この国の王は大そう好意的で、ダビデの求めに従い、南の荒野にあるチクラグの町をダビデに与えました。ここにいる間に、ダビデにつくイスラエル人がまた増えました。大勢の人がサウルとの争いでダビデに同情しました。彼が王に対して何もしていないことを知っていました。あるものはまたベツレヘムの住民の前で、サムエルがダビデに王のしるしとして油を注いだことを知っていたのでしょう。イスラエルの優秀な兵隊の何人かもダビデを助けに来ました。これらは勇敢な人たちでした。また、右手と同様に左手でも上手に獲物が射られるほど弓矢が上手でした。彼らは上手にたてを扱い野鹿のように早く走れました。この人たちをダビデは自分の一団の指揮者にしました。そして1年と4ヶ月の間みなチクラグに住みました。


 暫くして、ペリシテ人はまたイスラエルとの大々的な戦いの準備をしました。ダビデはまだペリシテ人の間に住んでいたので、ペリシテ人と一緒にイスラエルと戦うため従者を連れてペリシテの主都ガテにやってきました。ところが、ペリシテの君たちはダビデたちの同行を喜びませんでした。ダビデが戦いの途中でペリシテの敵にまわることを恐れたのです。婦人達が「サウルは千を撃ち殺し、ダビデは万を撃ち殺した」と歌ったのを覚えていました。

 ペリシテ人がダビデを仲間に入れてくれなくて良かった理由が二つあります。一つはこの戦いで悲しいことが起こり、もし、ダビデがこれに携わっていたら非常に悔いただろうということ。第二の理由は、ダビデがチクラグに戻ってみると、町が焼き捨てられていたということです。放浪のアマレク人が町を焼き、婦人や子供をさらって行ったのでした。ダビデとその従者たちが自分たちの家が焼かれ、自分たちの女や子供がさらわれたのを見た時、涙がかれるまで泣きました。ダビデは、アマレク人を追ってもいいかどうか主にたずねました。神様は彼らを追うようにと言われ、取られたもの全部を取り戻すことが出来ると約束されました。

 ダビデは400人の家来を率いてアマレク人のあとを追いました。この荒れた、寂しい土地には誰も住んでいないのでどちらの方にこの盗賊どもが行ったかわかりませんでした。彼らは野にアマレク人に取り残された一人の病人を見つけました。この人は3日間何も食べていなかったのでほとんど餓死寸前でした。イスラエル人は彼を助け起こし、パンと水、それに干しイチジクや干しぶどうを与えました。食べた後、この人は話せるほど元気になりました。そこでダビデたちは、アマレク人の行方を尋ねました。彼は、「あなたは私を殺さないことを誓ってください。そうすればあなたをその部隊の所へ導きくだりましょう。」と言いました。

 陣地に戻っていたアマレク人は、ペリシテやユダの国から、たくさんの宝を奪ったのを祝って、飲んだり、食べたり、踊ったりしていました。ダビデはただちに彼らを攻めました。そして夜通し、翌日の夕方まで戦いました。らくだに乗って逃げた400人の若者を除いてアマレク人はみな殺されました。ダビデたちは盗まれたもの―自分の妻、息子、娘、牛、羊をみな取り返しました。その上殺されたアマレク人の家畜まで取りました。

 この間ペリシテ人は戦いの準備を終え、イスラエルの国に侵入していました。ダビデがいる所から約30キロ北のギルボア山で大きな戦いがありました。ペリシテ人は懸命に戦いました。そして、イスラエル人に勝ちました。大勢のイスラエル人はペリシテ人の矢に当たり、ひどく傷ついたり死んだりしました。ヨナタンはじめサウルのほかの息子二人も殺されました。また、ペリシテ人はサウルをも追いました。

 サウルは、ペリシテ人に捕まったらいじめられることを恐れました。そこで彼は、彼の武器を取る従者に、「剣を抜き、それをもって私を刺せ。」と言いました。武器を取るものはそんな恐ろしいことをするのを恐れてサウルを殺そうとしませんでした。そこでサウルは自分の剣を取って、切っ先を上にして地面に突き立て、自害するつもりでその上に倒れました。しかし、すぐには死にませんでした。非常な苦しみのうちから彼は一人のアマレク人を見つけました。そこで傷ついた王は、「そばに来て殺してくれ。私は苦しみに耐えない」と頼みました。すぐ死ぬほど剣が深くは突き刺さっていないものの生きる望みはないと見て取った若者は、サウルに頼まれるとおりにしました。サウルが死ぬと、彼はサウルの冠と腕輪を外して持ち去りました。

 戦いの翌日、ペリシテ人は死人の持ち物を略奪するために戦場にやってきました。彼らは、サウルの三人の息子の死体を発見しました。また、サウルの死骸も見つけて大そう喜びました。彼らは国中にサウルの死のニュースを伝えました。彼の鎧は神殿の一つに納めました。最も恐ろしいことは、彼らがサウルと三人の息子の死骸を町の城壁に釘付けにしたことです。これはイスラエル人を侮辱するためでした。その晩何人かの勇敢なイスラエル人は、サウルと息子たちの死骸を取り外し木の下に葬りました。イスラエル人は戦いの終わった後、7日間嘆きました。この間中ダビデはことの次第を何も知りませんでした。彼とその従者は、野蛮なアマレク人と荒野で戦っていたのです。

 ダビデたちがアマレク人を征服し、婦人、子供たちをチクラグに連れ戻した2日後、一人の若者が町へやってきました。その着物は破れ、頭に土をかぶっていました。彼がニュースを持ってきたのを知って、人々はそのまわりに集まってきました。「あなたはどこから来たのか。」とダビデはたずねました。その人は、「私はイスラエルの陣営から逃れてきたのです。」と答えました。これを聞いてダビデたちは熱心に耳を傾けました。「様子はどうであったか話しなさい。」とダビデは言いました。「ペリシテ人は勝ち、民の多くは倒れて死に、サウルとその子ヨナタンもまた死にました。」と若者は言いました。
 これは大そう重大なニュースでした。ダビデが王になれることを告げるニュースでもあったからです。「あなたはサウルが死んだのをどうして知ったのか」とダビデはたずねました。若者が自分がどのようにサウルの死を助けたかを語り、ダビデにサウルの冠と腕輪を渡しました。これを聞き終わったダビデは、自分の着物を裂き、その兵たちもみなこれに習いました。そして夕方まで、サウルやヨナタンや、その他死んだイスラエル兵たちを覚えて嘆き断食をしました。