2013年9月24日(火)小さな朗読会169「追放者となったダビデの話」(「母と子の聖書旧約下」70章)

 ダビデはサウルから逃れるには国を出なければならないと思いました。そこで、ペリシテ人の国のガテに行きました。そこでもまだ危険でした。「これはイスラエルのあのダビデではありませんか。『サウルは千を打ち殺し、ダビデは万を撃ち殺した』と女たちが歌いあったのはこの人のことではありませんか。」と自分たちの王に言いに行く者があったからです。

 彼らはダビデをその王の前に連れて来ました。ところがダビデは、捕らえられるのを避けるため気が狂った様子を見せました。彼は門の扉を撃ち叩きよだれを垂らしました。これを見た王は、「こいつは気が狂っている。どうして彼を私の所へ連れてきたのか」と家来に言いました。この時はこうして助かったもののダビデは町に留まるわけにはいきません。神様に助けを求めながら彼はユダの国にあるアドラムと言う大きな洞穴に隠れました。これを知ったダビデの家来や兄弟たちは彼のもとにやってきました。その頃は、王が一人の人に怒りを持つと、怒りがその人の家族にも及び、皆が殺されることがあったので危険だったのです。サウルを嫌ったイスラエル人も大勢ダビデのもとにやってきました。間もなくダビデには400人の家来が出来ました。彼らは、サウルに見つけられる危険があるので長くアドラムの洞穴にいるわけにはいきませんでした。ダビデは自分の家来をイスラエルの国から遠いヨルダン川の向こうのモアブの国の一つの町に連れて行きました。そこに彼は自分と同じ苦しい生活をするのには年を取りすぎた父母を安全に住まわせました。

 まもなく神様はダビデのもとに預言者を送り、ユダに戻るように言われました。ダビデとその400人の家来は言われたようにしました。そしてサウルから安全と思われる森を見つけました。ダビデがいる所をつきとめたサウルは、すぐに軍勢をひきいて出かけてきました。ダビデとその従者は、サウルから身を守るためあちこちと逃げなければなりませんでした。彼らは何日間も、荒野の山地の洞穴に隠れました。これは大変危険なことでしたが、王がダビデを見つけ出すことを神様はお許しになりませんでした。

 ダビデがある森に隠れていることをサウルの息子ヨナタンは聞きました。彼はその友をたずね励ましました。この二人は、自分たちの子供がいついつまでも友であるとの約束を新たにしました。この地方には、ダビデに好感を持たない町が一つありました。そこの住民は、サウルにダビデを探し出すのを手伝うと申し出ました。これを聞いてサウルは大そう喜びダビデのいる所を突き止めるようにこの人たちに言いつけました。

 暫くして、王は自分の兵を率いてこの地方に来ました。危ないところでダビデはこのことを知り大急ぎで逃げました。サウルの軍はダビデを追いました。ダビデの家来は、サウルの軍にほとんど包囲されもう逃げられないように見えました。ところがもうあと僅かという所で使者がサウルのもとにやってきて「ペリシテ人が国を侵しています。急いで来てください。」と告げました。この危機を聞いたサウルは、国を守るためダビデを探すのをあきらめました。

 ダビデは助かりましたが、ここに留まるのは危ないと感じました。そこで死海に近い大そう荒れた土地に行きました。そこはエンゲデ、すなわち「野山羊の岩」という所でした。ダビデとその家来は、大きな洞穴に隠れました。
 ペリシテ人を追い払った後、サウルは3千人の優秀な兵を率いてダビデを探すために野山羊の岩にやってきました。彼は大変疲れ洞穴に入って眠りました。サウルは、ダビデの隠れていた洞穴に入って眠りました。彼は穴の奥の暗がりの中にいたダビデや家来達に気づかなかったのです。サウルは、見回しもしないで横になってしまいました。ダビデの家来達はそっと、「ようやくあなたの敵を殺す機会を神様は与えてくださいました。と囁きました。ダビデは、一言も答えないでサウルの寝ている所にそっと行きました。そして、剣で王のゆったりした上着の裾を切ってきました。しかし、家来たちが王に触れることは許しませんでした。
 暫く眠った後でサウルは目を覚まし、洞穴から出ました。ダビデはその後から洞穴を出て「わが君、王よ」と呼びかけました。サウルは誰が自分を呼んでいるのかと思い振り向くと、そこには自分が追っているダビデがいるではありませんか。ダビデは地にひれ伏し「どうしてあなたは私があなたの敵だという人々の言葉を信じるのですか。主があなたを今日私の手に渡されたのですが『わが君は主が油を注がれた方であるから、これに敵して手を伸べることはしない。』と言って、私は殺しませんでした。わが父よ、ご覧なさい。私はあなたを容易に殺せたのですが、上着の裾だけしか切りませんでした。どうしてあなたは私を殺そうとされるのですか。私に傷をつけたら主はあなたに報いられましょう。私は決してあなたを殺そうとは致しません。」と言いました。
 サウルはダビデを見て驚きました。ダビデのこの親しい言葉を聞き、命拾いをしたことを知って、彼は大そう恥ずかしく思いました。そこで「わが子ダビデよ、これがあなたの声であるか。」と聞き返しました。ダビデに対して酷かったことを悔い、サウルは涙を流しました。そして、「私はあなたに悪を報いたのに、あなたは私に善を報いる。私はあなたを殺そうとしたのに、あなたは私の命を助けた。あなたが今日私にしたことのゆえに、どうぞ主があなたに良い報いを与えられるように。私はあなたが必ず王となることを知っています。その時、私の子孫を殺さないように約束してください。」と言いました。
 ダビデは、王が帰る前にこのことを約束しました。しかし、サウルを信用することはできないので、ダビデとその従者は洞穴に戻りました。いつまたサウルが荒れ狂い、ダビデを急に殺そうとするかわからなかったからです。

 その頃、あの年老いた良い預言者サムエルが死にました。イスラエルの人々は皆ラマに行って彼の死を悼みました。ダビデは、サウルを信用出来ないので、行くことが出来ませんでした。かといってサウルに隠れ場を見つけられてしまったので洞穴に留まるわけにもいきません。ダビデは、従者を連れて死海の南にあるもう一つの荒地、パランの荒野に行きました。
 その途中でナバルという大金持ちの所有地を横切らなければなりませんでした。この人は、粗暴でけちな人でしたが、その奥さんは美しいうえに賢く親切で、大そう良い人でした。

 ちょうど羊の毛を切る頃でした。ナバルは、たくさんの羊や山羊を持っていたのでその毛を刈るために人を何人も雇いました。そして、この人たちのため沢山のご馳走を用意しました。
 ダビデは、自分の家来達のため十分な食物を獲得するのに大変苦心しました。今では家来の数は6百人を越えていたのです。羊の毛を切っているものがナバルの僕であることを知ったダビデは、十人の若者をナバルの所に遣わし、「私は羊の毛を切る者たちがあなたの僕であることを聞きました。あなたの羊飼い達は我々と一緒にいたのですが、我々は彼らを少しも害しませんでした。またその羊を1匹も取りませんでした。ですからどうかあなたの好意を示して、あなたがご自分の僕たちのために用意された食物を少し分けてください。」と言わせました。
 そのころ、もてなしを求める人を断るのは大そう失礼なこととされていました。それなのにけちなナバルは、「ダビデとは誰か。この頃は主人を捨てて逃げる僕が多い。どうして私のパンと水、また私の羊の毛を切る人々のために屠った肉を取って、どこから来たのかわからない人々に与えることができようか。」と答えました。

 若者達は、ダビデの所に戻り、ナバルの失敬な答えを伝えました。ダビデは大そう怒り、従者達にナバルを懲らしめに行くよう言いつけました。

 その頃、ナバルの僕の一人は、ダビデが自分の主人を懲らしめに来ることを耳にしました。彼は急いでナバルの妻アビガイルの所に行き、「ダビデが荒野から使者を遣わして、主人に挨拶をしたのに主人はその使者たちを罵られました。しかし、あの人は我々に大変良くしてくれて、我々が野にいた時、彼らと共にいた間は何一つ失ったことがありませんでした。ところがダビデは若者に対する主人の言葉を怒って、我々を懲らしめるためにやってきます。あなたは彼を留めることを早く考えてください。でないと彼は我々に災いを下すでしょう。我々は主人に話しかけることも出来ません。」と言いました。

 アビガイルは美しく、しかも賢い人です。すぐさま行動に移りました。彼女は、パン2百、ぶどう酒の皮袋2つ、調理した羊5頭、ポップコーンのようにいった麦5セア、ほしぶどう百房、ほしいちじくのかたまり2百を整え、これをろばの背に積み、家来達に、ダビデの所へ持って行かせました。
 彼女もまた他のろばに乗ってついて行きました。主人ナバルには、自分が何をし、これから何をしにいくか告げませんでした。アビガイルは、ダビデを見るとすぐにろばの背から降り、丁寧に地にひれ伏し、主人の行動を詫びました。それから「主がいつかはあなたに勝利を得させて、イスラエルの支配者とされることを私は知っています。その時、あなたはナバルの家の者を殺さなかったことを喜ばれるでしょう。」と言いました。
 ダビデは、この美しくて優雅な婦人に心打たれ、「今日あなたを遣わして、私を迎えさせられたイスラエルの神、主はほむべきかな。あなたの知恵はほむべきかな。そうでなければ私はナバルを殺したでしょう。もしあなたが急いで私に会いに来なかったならば、今夜のうちにナバルとその家の者を懲らしめたでしょう。」と言いました。

 アビガイルは家に帰りました。ナバルは家で、王の酒宴のような酒宴を開いていて大そう酔っていました。アビガイルは自分のしたことについて何も言いませんでした。
 朝酔いがさめた時、彼女はナバルにどんな危険だったかということ、ダビデとその従者がナバルを殺そうと考えていたことを告げました。ナバルは非常に恐れて心臓も止まりそうになりました。十日ほどの後、主はナバルに病気をおくられたのでナバルは死にました。ナバルの死を聞いたダビデは、アビガイルに使者を送り、自分の妻になるように頼みました。そこでアビガイルは、またろばにまたがりダビデのもとに行きました。