2011年2月22日(火)小さな朗読会138「シナイ山から語られる神」

 イスラエルの民が三ヶ月ほど、雲の柱について旅すると、シナイ山系と呼ばれる、大そう高くて険しい山にきました。この山系は地図にも出ています。この山々の前で、火の柱はとどまり、イスラエルの神は、この山のふもとの荒野に、天幕をはりました。

 60万個の天幕が、見渡す限り、あらゆる方角にはられました。どの天幕のまわりにも、たきぎを集めて、マナを煮たり焼いたりする焚き火のつくれる位の土地があいています。宿営の前には、昼は雲の柱、夜は火の柱がいつも見えています。ここに彼らは、ほとんどまる一年間留まりました。神様は彼らにたくさんのことを教えようと考えられたのです。ここは人里はなれた静かなところで、何にも煩わされたり、邪魔されたりすることなく、神様のお望みになることに、皆注意を傾けることができます。

 イスラエルの民は、430年間、異教国エジプトにいました。その間、神様からは何のみ言葉もありませんでした。彼らには、今のように、神様について読める聖書などありません。ですから、大勢のものが偶像を拝みだしたのも無理はありません。しかし、神様はここで、ご自分の律法を教え、神様に喜ばれるには、どのように生活すればよいかを、皆が知ることができるように、戒めも与えられることになりました。

 この律法を、いつでも読めるように、モーセは本に書くことになりました。これが聖書の始まりです。これで、モーセがパロの娘の養子にされ、エジプト人の知識や知恵をみな教えられたことの重要性が皆さんにもわかったでしょう。もし、奴隷の子として育っていたなら、モーセは読み書きなど、全く知らなかったでしょう。

 イスラエルの民がみな、シナイ山のふもとの荒野に落ち着くと、神様ご自身が、山の上にこられました。そして、モーセを呼ばれたので、モーセは神様のみ言葉を聞くために山に登りました。神様はモーセを通して、もしイスラエルの国民がみな神様に従えば、神様の特別な友、祭司の国となり、神様が国民一人ひとりに非常に近くなられることを、約束されました。

もし彼らが、本当に神様に従ったら、どんなに素晴らしかったことでしょう。彼らは、昼も夜も神様に仕える天使のようになっていたことでしょう。確かに、何人かは神様に従い、神様の特別の友となりましたが、国民全体としては、何度も神様に従うと約束しながら従いませんでした。

 それから神様はモーセに、あと三日すると、天から直接語るから、イスラエルの民がいつまでも神様を信じるように、この神様の声を聴かせるようにと言われました。モーセは、山から降りて、民の長老たちに、神様の言われたことを伝え、長老たちはそれを民に伝えました。すると民は、異口同音に、「わたしたちは主の言われたことをすべて行います。」と言いました。

モーセは、神の声を聴くために、民を用意させなければなりません。第一に、神様のおられる聖い山の周りに、囲いを立てなければなりません。誰一人、動物一匹でさえ、山にさわってはなりません。さわったものは、石で撃ち殺されます。民は皆、衣服を洗濯しなければなりません。

 三日目に、ラッパの音と共に、民は神様のお言葉を聞くため、山のふもとに集まるのです。三日目の朝早く、シナイ山は濃い雲に覆われました。恐ろしい雷が空に鳴り響き、稲光が閃きます。大きなシナイ山は、激しく揺れ動き、その頂上は、煙と焔に包まれました。ラッパの音はますます大きくなり、天にも響き渡りました。神様ご自身が、雷や稲光、燃える焔の中から、人の子に語られました。

    十戒
わたしはあなたの神、主であって、あなたをエジプトの地、奴隷の家から導き出した者である。
 1. あなたはわたしのほかに、なにものをも神としてはならない。
 2. あなたは自分のために刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水の中にあるものの、どんな形をも造ってはならない。それにひれ伏してはならない。それに仕えてはならない。あなたの神、主であるわたしは、ねたむ神であるから、私を憎むものは、父の罪を子に報いて、三、四代に及ぼし、わたしを愛し、わたしの戒めを守るものには、恵みを施して、千代に至るであろう。
 3. あなたは、あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。主は、御名をみだりに唱えるものを罰しないではおかないであろう。
 4. 安息日を覚えて、これを聖とせよ。六日のあいだ働いて、あなたのすべてのわざをせよ。七日目はあなたの神、主の安息であるから、なんのわざをもしてはならない。あなたも、あなたの息子、娘、しもべ、はしため、家畜、またあなたの門のうちにいる他国の人もそうである。主は六日のうちに、天と地と海と、その中のすべてのものを造って、七日目に休まれたからである。それで主は安息日を祝福して聖とされた。
 5. あなたの父と母を敬え。これはあなたの神、主が賜る地で、あなたが長く生きるためである。
 6. あなたは殺してはならない。
 7. あなたは姦淫してはならない。
 8. あなたは盗んではならない。
 9. あなたは隣人について偽証してはならない。
10. あなたは隣人の家をむさぼってはならない。隣人の妻、しもべ、はしため、牛、ろば、またすべて隣人のものをむさぼってはならない。

これが「十戒」、すなわち、人に対する神様の律法です。

 民は、雷や稲光を見て、恐ろしさにふるえ、山から逃れようとしました。「あなたが私たちに語ってください。私たちは聞き従います。神様が私たちに語られないようにしてください。そうでなければ、私たちは死ぬでしょう」と、彼らはモーセに言いました。そこで、民が遠く離れているところで、モーセは神様と話すため、山に上がり濃い雲の中に入っていきました。

 主はモーセに語り、イスラエルの民にいうことを伝えられました。もしイスラエルの民が、主の命じられることをすべて行えば、主が彼らの敵と戦い、カナンの地に導かれると神様は約束されました。そして、今、カナンに住んでいる悪い国々を主が追い出して、その地をこの民にあげるといわれるのです。また、もし従えば、主は病気からイスラエルの民を守ると約束されました。また、カナンの地に入った時は、そこの異教の人々と友だちになってはいけない、と警告されました。これは、イスラエル人も異教的になって、偶像礼拝を始める危険があるからです。

 神様から、民に伝えることについての指示を与えられた後、モーセはシナイ山を下りました。そして、神様の語られたことを民に伝えました。民は、「私たちは主が仰せられたことを皆、従順に行います。」と答えました。そこでモーセは、山の上で主に言われたことを、みな本に書きました。これが聖書の始まりです。主の言われたことを書いた後で、モーセはそれを民に読んで聞かせました。

 モーセは聖書の最初の五つの書、創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記を書きました。神様は、世界がどのように造られたか、また、モーセが生まれる前に起こったことを、みなモーセに話されました。そして、間違いのないように、神様は、書くことをはっきりお教えになりました。これらはみな大変長い本なので、モーセは何年もかかって書いたことでしょう。それは大変大切な仕事でした。世界中の人がこれを読み、神様の戒めを知り、その善と義と聖を知ることの出来るように聖書が書かれることを神様はお望みになりました。

 神様の言われたことを、モーセが民に伝え終わると、主はモーセに再び山に登るように言われました。モーセは、イスラエルの長老たちに、「神様は私にまた山に登り、しばらくそこに留まるように言われました。私が降りて来るまでここで待っていなさい。アロンとホルとがあなたがたと共にいるから、何か問題がおこれば彼らのところへ行きなさい。」と言いました。

 こうして、モーセはイスラエルの民をおいて山に登り、民から見えなくなりました。神様がご自身をあらわされる濃い雲の中に入っていきました。主の栄光は、シナイ山に留まり、皆にも見えました。それは山の頂上全体が火事にでもなったような輝かしい光でした。モーセは長い間、神様と一緒にそこにいました。四十日四十夜いました。

 キャスリン・ヴォス作・有賀英子訳「母と子の聖書旧約上」より、小峯書店発行絶版  くまだなみこ