2010年11月23日(火)小さな朗読会135「エジプトを出るイスラエルの民」(「母と子の聖書旧約上」出エジプト記12章)
モーセとアロンは急がなければなりませんでした。これから先がとても忙しいのです。わずかの間に、イスラエルの民をエジプトから出さなければなりません。こんな大勢の人を動かすのは大変です。用意をしなければなりません。時がくれば、用意する時間もなしに、エジプト人は彼らを追い出すでしょう。
モーセとアロンは民の長老に、「隣人のところにいって、男も女も、金の飾り、銀の飾りまた衣服を請い求めなさい」と言いました。これは、イスラエルが奴隷として報酬なしに働いた、長年の労働に対する報いです。神様はご自分の民が貧しくないようにされました。彼らは、他国に行き、食べ物やほかのものを買うために、これからはお金がいります。
モーセとアロンは、「一家族に小羊一頭を取り、夕暮れにこれを殺し、その血をうつわにとって、その血を二つの門柱と、かもいに塗りなさい。その夜から朝にかけては、だれも家から外に出てはならない。主はエジプトを打つため、その夜、エジプトを通られる。しかし、門柱に塗られた血をみるとき、主はあなたがたの所を過ぎ越し、あなたがたを滅ぼすことはない。」と言いました。
モーセはまた一つの命令を出しました。「これをしたあと、その羊を焼いて食べなさい。大急ぎでエジプトを出るから、旅の支度をしなければならない。足にくつをはき、上着を着、帯をしめ、手に杖を持っていなければならない」と言いました。
この暑い国では、人々は家では靴や上着をつけませんでした。歩く時は、歩きよいように、それを帯にからげました。
旅の身支度ができたら、イースト菌を入れずにパンを作るため、水と粉をまぜなければなりません。これは、エジプトを立つ前にしなければならないことです。
イスラエルの民は、それぞれ自分のところに戻り、モーセが命じたようにしました。
エジプトを出るための準備!何という日でしょう!赤ん坊の着物をまとめて、子供でも背負えるようにする!ろばに家財道具をのせる。おばあさんが乗れるように、もう一頭のろばを用意し、お尻が痛くならないように、くら代わり毛布をのせる!
どの子も、みな何かをもたされました。その光景が想像できます。
「ほら、ルベン、あなたが一番大きいのだから、この大きい荷物を持ちなさい。背負わせてあげよう。その方がらくだから。」
「ミリアム、この包みに、あなたと赤ん坊の着物が入っています。これは重すぎないでしょう。」
「小さいラケルもこの包みなら持てるわ。ラケル、いらっしゃい。なくさないように、背中にくくりつけてあげましょう。」
夕方頃、どの家でも小羊を殺し、血を器に受けました。それからおのおのの家のお父さんが、門柱とかもいに血を塗りました。主が門柱の血を見るとき、その家を過ぎ越されます。ういごのかわりに小羊が死んだのです。そういうわけでキリストは、「神の小羊」といわれているのです。イエスさまは、わたしたちが、罪の当然の罰である地獄で苦しまないで、天国にいけるように、十字架にかかって死に血を流されました。
民がみな小羊を殺して門柱にぬったあと、羊を焼くための火をつけました。この夜、出発する前に、羊を食べてしまわなければなりません。
イスラエルの民にとってとても忙しい一日でしたがもう終わりました。イースト菌がまぜてなく、パンが焼いてないほかは、準備は全部整いました。
その晩、ゴセンでは、どこもかも静かでした。みなは待ちました。
夜中に、主はエジプトの国を通り、パロのういごから牢獄に入っている囚人のういごまにいたるまで、エジプト人のういごを打たれました。牛のういごも死にました。パロは夜中に起きました。エジプト人もみな起きました。この日にだれも死ななかった家庭はありませんでした。王宮から、恐ろしい悲鳴があがりました。皇太子が死んだのです。おそれと悲しみのうちに、悪い王は、自分の死んだ息子をながめました。おそれている召使たちの間からも、悲鳴がつぎつぎと起こりました。エジプト中に叫びがおこりました。どの家にも死人がでたのです。
ところが、ゴセンでは、だれも死にませんでした。主は血を塗った家を過ぎ越されたのです。
パロは恐ろしさのあまり、朝まで待てず夜中にモーセとアロンを呼びました。そして言いました。「あなたがたは今すぐに、ここを立って、出ていくがよい。あなたがたの民と羊や牛を取って、できるだけ早く行きなさい。」
エジプト人は、イスラエルの家に走りこみ、「すぐに、国をでなさい。早く!でないと、私たちはみな死んでしまう。ここにあなたがたがいては、主は、私たちをみな殺しにするだろう。早く、早く、国をでてくれ」と、叫びました。
「でも先に、パンを焼かなければ途中で食べるものが何もありません。と、イスラエルの人々は反ばくしました。
「いやいや、そんなことは待っていられない。練り粉を持っていって、エジプトから出たらパンを焼きなさい。」
そこで、お母さんたちは、粉を布で包んで、持っていかなければなりませんでした。
彼らは近所の人々に、「もし、私たちが出ていけば、あなたがたの金や銀の飾りものや衣服をくれますか」と聞きました。
「ええ、ええ、欲しいものを持っていきなさい」とエジプト人たちは言いました。そして、エジプト人は自分たちの一番美しい金のくさりや、耳飾り、腕輪、銀の飾り、晴着などを持ってきて、イスラエル人に、おしげもなく与えました。「これをみなも持っていくがよい。ただ、できるだけ早く、出て行きなさい。あなたがたが国を出るまでは、私たちは安心できません。」と彼らは言いました。
イスラエル人は、全部支度を整えていたので、二百万人の人々が出発するのにも時間はそうかかりませんでした。旅の身支度も荷造りもできていました。それにみんな十分に夕食を取っていました。小羊は焼いて食べるようにと、神様が人々に言われたのは、大変思いやりのあることでした。誰もお腹をすかして歩くという心配はありません。
神様は大きいことだけでなく、小さいことにも、私たちを守っていてくださいます。聖書はまた、「神はあなたがたを顧みていてくださるのであるから、自分の思い煩いをいっさい神に委ねるがよい。」と教えています。また、急いで出発できるように前もっていろいろな準備をしておくことを民にいいつけるように言われたのも神様です。神様はあらゆる方法で、彼らをやさしく見守ってくださっていました。
モーセは、五人一列の隊を組んで歩くように命じました。短い時間で、みな列になりました。そこでモーセは、長老たちに「用意!前へ進め!」の命令を出しました。
旅は始まりました。これまでにこのような行進があったでしょうか!二百万人が家族ごとに歩くこのような行列が!全部が全部歩いていたわけではありません。老人と小さい子供はろばに乗っていました。牛や羊もみな一緒でした。家財道具は、ろばやらくだに積まれていました。
出発地はゴセンのラメセスでした。エジプトを出るまでみな行進しました。
それから行列は止まりました。らくだやろばの背から、畳まれていた天幕がおろされ、そこに張られました。どの家族も、焚き火をつくるために薪を集め石を取って火であつくなるまで熱しました。それから石についた灰をはらい、持ってきた練り粉を平らにのばして、この熱い石の上に置きました。粉にはイースト菌が入っていないので、パンよりもビスケットのような味がします。しかし、一日中歩いてお腹をすかしていたイスラエル人にはとてもおいしく感じられました。外で食べて天幕のあたたかい砂の上で寝るので子供たちは大喜びでした。遠足に来たようでした。
イスラエル人は、大事なものを一つ一緒に持ってきました。それはモーセの気づいたものです。ヨセフの骨を持ってきたのです。ヨセフは三百年も前に死んでいましたが、その体は、エジプト人によって薬をぬられていました。今ようやくヨセフの体は、その息子たちの約束したとおりカナンに戻されるのです。
イスラエルの民はどれほど長くエジプトにいたのでしょう。ヤコブが七十人の家族と大勢の召使をつれてエジプトに来たのは、四百三十年も前のことです。四百三十年後、主の民がエジプトを出たときには、二百万人以上になっていました。
主の命令でモーセはイスラエルの民に大変大切なことを伝えました。
「この夜がきたら、主がわたしたちをエジプトから連れ出された不思議な方法を覚えて、記念しなければならない。その夜は小羊を殺し、その血をそそいで門柱に塗らなければならない。私たちの子も、その子も、主が、すべてのういごを打つためエジプトを通られたとき、血のある家を過ぎ越されたことを覚えなければならない。ういごのかわりに小羊が死んだのです。
この夜を毎年過ぎ越しの夜といい、私たちはこの最初の過ぎ越しにしたと同じように、急いで旅にでるつもりで靴をはき、手につえを持って、小羊を食べなければならない。また、この時のようにイースト菌の入らないパンを食べなければならない。
こうすれば、この夜のことが思い出されよう。そして、私たちの孫が、「この過ぎ越しは何の意味ですか」と聞くとき、「これは主の過ぎ越しで、主がエジプト人を打ち、私たちの家々を過ぎ越された記念である。」と答えなければいけません。」
主はイスラエルの民に、毎年この過ぎ越しを一週間守り、この間中イースト菌の入ったパンは食べないように命じられました。この週の最初に小羊を殺して食べるのでした。(「母と子の聖書旧約上」、キャスリン・ヴォス作、有賀英子訳、小峯書店絶版) くまだなみこ