2010年6月2日(水) なぜ日本ではキリスト教人口が少ないのですか? 千葉県 ハンドルネーム・あっぷるさん
いかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会がお送りするBOX190。ラジオを聴いてくださるあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。
それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は千葉県にお住まいのハンドルネーム・あっぷるさんからのご質問です。お便りをご紹介します。
「山下先生に質問です。同じアジアの国々の中で日本だけがどうしてクリスチャン人口が少ないのですか。すでにカトリックが入ってきてから460年以上、プロテスタントが入ってきてから140年以上経っているというのに、日本のクリスチャン人口はいまだに1%未満だといわれています。
それに対してお隣りの国、韓国では30%近い人々がクリスチャンで、その数は仏教徒よりも多いそうです。中国でさえ7%を超えており、非公認の教会も含めると10%近くになるとさえ言われています。
日本も韓国も中国も、歴史的には仏教の影響を受けてきた国でしたし、儒教の影響も同じように長かったはずです。そればかりか、中国は今現在、共産主義が強い力を持っているにもかかわらず日本より遥かに多い割合の人がクリスチャンです。こうしたことについて、山下先生は何が原因だと思いますか。ご意見をお聞かせください。」
あっぷるさん、メール有難うございました。仰る通り、日本でのキリスト教布教の歴史の長さから考えても、また、日本周辺の国と比べても、キリスト教人口が日本ではあまりにも少ないのは否定し難い事実です。
では、なぜそうなのか、と問われると、実は私にもその理由がはっきりとは分かりません。ただいろいろな説明を耳にしたことならばあります。おそらくたった一つの理由でそうなったのではなく、いくつかの要因が重なってそういう結果になったのだと思います。
ところで、日本のクリスチャン人口がいったいどれくらいなのか、日本のキリスト教界では1%未満というのが常識的にいわれている数字です。これはプロテスタントの諸教派、ローマカトリック教会、ロシア正教なども含めた数字です。あっぷるさんもこの数字をもとにご質問をしていらっしゃるわけです。
キリスト新聞社が発行している『キリスト教年鑑』に掲載された統計によれば2009年の日本のキリスト教人口は109万2713人で、人口に占める割合は0.9%です。おそらくこれが最も正確な数字だと思います。
ところで、面白い調査の結果があります。アメリカの世論調査会社ギャラップ社が2006年に発表した資料によると、日本のクリスチャン人口は6%に達すると言うことでした。先ほど紹介したキリスト教年鑑の数字と5%も違うというのは驚くべき数字です。
実際の数字よりも5%も多いう数字が出てきた理由を考えてみると、キリスト年鑑が把握している数字は、それぞれの教派が発表している信徒数に基づいています。それに対してギャラップ社の数字は、自分がキリスト教信仰だと自認している人の数です。その中には洗礼を受けていない人も含まれているでしょうし、あるいは一度は受けたものの長年教会に通っていないために、教会の名簿からは抹消されてしまったという人も含まれているのでしょう。
これは日本で行われた調査ですが、他の国でも同じような方法で調査が行われたら、どんな結果がでるのか興味深いところです。キリスト教会が把握している教会員の数と自分がクリスチャンであると思っている人の数が、どこの国でもこれくらいの開きがあるものなのでしょうか。それとも日本だけの特徴なのでしょうか。もし日本だけの特徴だとすれば、その数字が意味することは、日本のキリスト教会はキリスト教に理解のある人々を何らかの理由で取り込めずにいるということではないかと思います。もちろん、それは日本の教会の側に問題があるのかもしれませんし、日本人自体に問題があるのかもしれませんし、日本人社会の問題なのかもしれません。いずれにしても、キリスト教に興味をいだいている人すら5%も取り込むことができないのだとすれば、それ以外の人々がクリスチャンになるのはもっと困難であるという予想がつくのではないかと思います。
もっとも、世界中どこの国でも実際のクリスチャン人口の5倍ぐらいは自分がキリスト教を信じていると思っている人がいるという可能性もあるかもしれません。そのあたりのことはもう少し統計的な資料がないことには断定することができません。
いずれにしても、このギャラップ社の調査数字は日本のクリスチャン人口について考える上で興味深い数字であることには間違いありません。
さて、話を最初のご質問に戻しますが、とりあえず、韓国と中国に比べてということに限定して話を進めることにします。ご質問の冒頭では「同じアジアの国々の中で日本だけが」とありましたが、アジアの国々すべてを調べれば、日本と同じようにクリスチャン人口が少ない国は他にもあります。たとえばラオスは1.5%、タイは0.7%、ブータンは数字がありません。
お便りの中にもありましたが、韓国、中国、日本に共通した文化的な背景には、仏教と儒教があります。既存の宗教が強い影響力をもっていれば、あとから入ってくる宗教は影響をおよぼすことが難しいと考えるのは当然です。しかし、そうだとするとなぜ日本だけがキリスト教の影響を韓国や中国場合よりも受けにくかったのかということが問題になります。
その理由の一つは、江戸幕府が推進した檀家制度と徹底したキリスト教弾圧が影響しているのではないかとわたしは思います。二百年以上にわたるこのキリスト教排除の政策は日本人にキリスト教を毛嫌いさせる大きな要因の一つであったと考えられます。事実、最初にキリスト教が伝来した16世紀半ばからの最初の数十年は、日本でも爆発的にキリスト教が拡大しました。そのことは、日本人自身にキリスト教を敵対視する思いが最初から備わっていたということではない、ということです。
日本人のキリスト教に対する偏見は明治時代になってからもそう簡単には消えませんでした。そればかりか、昭和の時代になって国が軍国主義に傾いていく中で、キリスト教は再び敵対視されるようになってきました。
日本のキリスト教の歴史はプロテスタントの歴史だけでも150年とはいえ、すでに形成されたキリスト教に対する偏見が消えるにはまだまだ時間がかかると言う事です。
日本でキリスト教が受け入れられないもう一つの考えられる理由に、幕末の頃から言われ始めた「和魂洋才」という考えがあります。技術面では進んだ西洋文明に学んだとしても、日本人としてのアイデンティティ、特に精神的な拠り所は西洋のそれがとって換わることができないという考えです。
そのことと相まって、ヨーロッパでは啓蒙主義が台頭し理性至上主義の時代が始まっていましたから、西洋から技術を学ぶこととキリスト教を受け入れることとはますますかけ離れていったものと考えられます。残念なことにキリスト教の良い面を学ぶ機会がそうした事情によってますます失われていったと考えられます。
最後にもう一つ、「キリスト教は排他的である」と考える日本人のキリスト教嫌いの感情が原因として考えられます。檀家制度や氏子制度によって形作られた共同体に対して、キリスト教が対立する関係にあることは否めません。そうした共同体の結束が強ければ強いほどキリスト教が排除される傾向が強いのも事実です。実際、そうした共同体の結束が弱い都会ほどキリスト教人口の率が高くなるのは、その事を物語っているのではないでしょうか。