BOX190 2011年1月5日(水)放送    BOX190宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄 (ラジオ牧師)

山下 正雄 (ラジオ牧師)

タイトル: どれが本当の聖書? 大分県 ハンドルネームN・Aさん

 新しい年を迎えいかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会がお送りするBOX190。ラジオを聴いてくださるあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。

 それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は大分県にお住まいのハンドルネームN・Aさん、女性の方からのご質問です。お便りをご紹介します。

 「質問ですが、聖書は新共同訳の他にもあるとラジオで聞きましたが、書いてある内容が異なるのでしょうか。どれが本当のことを書いてあるのでしょうか、迷います。教えてください。」

 N・Aさん、いつも番組を聴いていてくださってありがとうございます。新年を迎えて、心を新たにして聖書を読んでみようと思っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。聖書をすでに持っていらっしゃる方も、これから買ってみようと思っていらっしゃる方も、きょうのご質問が参考になればと思い、ご一緒に考えてみたいと思います。

 さて、ご質問の中に出てきた「新共同訳聖書」というのは、日本聖書協会が発行している翻訳聖書です。日本語の翻訳聖書はこの他にもまだ何種類かの翻訳があります。もちろん、他の国の言葉の翻訳聖書となると、さらにたくさんの種類があります。

 今回のご質問の中に出てきた「聖書は新共同訳の他にもある」という話は、翻訳聖書の種類の話のことを言っているのだと理解しました。キリスト教会が手にしている「聖書」に、内容が異なった何種類もの聖書があるという意味ではないはずです。
 しかし、「聖書」というときに、何が聖書なのか、というのは、それだけで論争になるくらい、実は大きな問題を含んでいます。
 たとえば、ユダヤ教の人たちに「聖書」はどれですか、と尋ねてみれば、彼らが示す聖書は、わたしたちキリスト教会が「旧約聖書」と呼んでいるものだけを「聖書」として示してくるはずです。しかし、キリスト教会では、旧約聖書に続く、イエス・キリストと教会にかかわる事柄を記した新約聖書を含めて「聖書」と呼んでいます。

 おおざっぱな言い方をすれば、キリスト教会が聖書と呼んでいるものは、旧約聖書39巻と新約聖書27巻、合わせて66巻の書物です。これを「聖書」と呼んでいます。

 おおざっぱな言い方と言いましたが、実際、本屋さんで聖書を買おうとして手にしてみると、66巻以外の書物も含まれている「聖書」があることに気がつくと思います。新共同訳聖書では、その部分を「旧約聖書続編」と呼んで、「続編」の付いたものと付いていないものとがあります。この部分の扱いをどうするのか、という問題がありますので、「おおざっぱな言い方」とあえて言わせていただきました。ほとんどのプロテスタント教会では66巻だけを聖書と呼ぶのに対して、カトリック教会と聖公会では、「続編」部分の扱いが他のプロテスタント教会とは異なっています。
 今回はこの「旧約聖書続編」の問題についてはこれくらいに留めておきます。

 さて、翻訳聖書の話に戻りますが、今日は特に現在日本語で手に入るものに限ってお話したいと思います。

 いったい現在手に入る日本語の翻訳聖書が何種類あるのか、実はわたしも全部を把握しているというわけではありません。これもまたおおざっぱなことになりますが、翻訳聖書の種類として、個人訳とそうでないものとに分類できると思います。個人訳のものは、聖書の研究者個人の訳として出されたものです。当然、その翻訳にはその人の聖書研究から導き出された解釈が盛り込まれています。言いかえれば、それがこの個人訳の特徴といってもよいと思います。

 では、個人訳以外のものにはどんなものがあるでしょうか。団体あるいは委員会訳の代表的なものは、日本聖書協会のものと、日本聖書刊行会のものがあります。ご質問に出てきた「新共同訳聖書」は日本聖書協会の新共同訳翻訳委員会が翻訳したものです。この団体から出ている翻訳は、他にも「文語訳聖書」や「口語訳聖書」があります。それに対して、日本聖書刊行会から出ているものには「新改訳聖書」があります。こちらも個人の訳ではなく、新改訳聖書刊行会による翻訳です。そして、どちらの団体も、教会での聖書の使用を前提としている点で、個人訳のものとは異なります。
 これらの団体訳の他にも、個人以外が翻訳出版したものに、たとえばフランシスコ会訳の聖書と、岩波書店から出ている岩波訳の聖書があります。フランシスコ会訳の聖書はカトリック教会公認の日本語訳聖書を目指してプロジェクトが始まりましたが、途中で新共同訳聖書の翻訳出版に人材の協力をしたために、1956年から始まった翻訳作業のすべてが終わったのは2002年のことでした。
 岩波書店が出している翻訳聖書は、教会の教義からは中立な、出来る限り学問的な翻訳を目指すという方針を持った翻訳聖書です。

 さて、この他にも日本語で手に入る聖書はいくつかありますが、実際買って読もうとした時に、では一体どれを買ったらいいのか、困ってしまうかもしれません。まず一番大切な点は、その翻訳が何からの翻訳か、ということがあると思います。
 旧約聖書はヘブライ語、新約聖書はギリシア語で書かれていますが、翻訳聖書のもとになっているものが、学問的に定評のある校訂本のヘブライ語聖書、ギリシア語聖書に基づいているかどうか、これは一番にチェックしてもらいたいと思います。といってもどれが学問的に定評のある校訂本なのか、それ自体、普通の人は知らないことだと思います。先ほど紹介した団体訳の翻訳聖書は、どれも定評のある校訂本を底本として翻訳をしていますから問題はありません。

 その次にチェックしてもらいたい点は、その翻訳聖書が日本の教会の中でどれくらい普及しているかということです。聖書というのは、単に学問の対象ではありません。長年教会の中で読まれてきた書物です。翻訳という作業自体、解釈のまったく入らない機械的な作業ではありませんから、その翻訳解釈が教会の中で受け入れられているのかどうか、というのは大きなポイントです。

 といっても、現在、日本の教会で使われている代表的な翻訳聖書は、新共同訳聖書か新改訳聖書の二冊ですから、初めて聖書を手にするのでしたら、この二冊のうちのどちらかを選ばれたらよろしいかと思います。
 もし、すでに教会に通っている、あるいは、これから行ってみたいというお考えがあるのでしたら、その教会が使っている翻訳聖書をお求めになるのが一番確かだと思います。

 もちろん、他の翻訳聖書はいけないのか、というとそうではありません。それぞれに特徴があって、目的によってはとても役に立ちます。しかし、もし、最初の一冊目に買う聖書であるとするならば、キリスト教会の礼拝で使う聖書として普及しているものから選ばれるのがベストだと思います。そして、聖書の学びに特別な興味を覚えるのでしたら、二冊目に他の訳の聖書を手に入れて、読み比べてみるのもよいでしょう。その場合には、翻訳に関しての注釈の付いたものが理解の助けになると思います。

 N・Aさん、いかがでしたか。ぜひ新しい年の初めに、聖書を手にして読んでみてください。先ほどご紹介したどの翻訳聖書でも結構です。きっと素晴らしい恵みを見出すことと確信いたします。

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