BOX190 2008年10月15日(水)放送     BOX190宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下 正雄 (ラジオ牧師)

山下 正雄 (ラジオ牧師)

タイトル: 何故ジェイムズ? 埼玉県 K・Nさん

 いかがお過ごしでいらっしゃいますか。キリスト改革派教会提供あすへの窓。水曜日のこの時間はBOX190、ラジオを聴いてくださるあなたから寄せられたご質問にお答えするコーナーです。お相手はキリスト改革派教会牧師の山下正雄です。どうぞよろしくお願いします。

 それでは早速きょうのご質問を取り上げたいと思います。今週は埼玉県にお住まいのK・Nさん、女性の方からのご質問です。お便りをご紹介します。

 「7月30日(水)放送の番組では主イエスの兄弟ヤコブについてのお話を興味深く聴かせていただきました。
 いつも不思議に思っていたのですが、このヤコブは英語表記ではJamesになってしまうのはどうしてですか?
 これからも放送を楽しみにしております。
 皆様の上に主のお恵みが豊かにありますように。
 いつもありがとうございます。」

 K・Nさん、お便りありがとうございました。確かに言われてみれば、「ヤコブの手紙」の「ヤコブ」は英語ではJamesになっています。ヤコブとジェイムズでは、どう見比べてみても似ても似つきません。イザヤが英語読みでアイザイヤになったり、イサクが英語読みでアイザックになったりするのは、耳で聴くと違う人のように思えますが、スペルを見れば同一人物のことだというのはすぐに納得がいきます。ところが、ヤコブとジェイムズではスペルを見ても同一人物だとは気がつきません。

 ちなみに、聖書の中で最初に出てくるヤコブという名前は、イサクとリベカの間に生まれた双子のうちの弟の方、後にイスラエルという名前で呼ばれるあのヤコブです。英語ではJacobと呼ばれています。ヤコブという名前は7月30日の番組の中でも触れましたが、新約聖書の中には十二弟子の一人ゼベダイの子ヤコブやイエスの兄弟ヤコブなど数名のヤコブが登場しています。ギリシア語聖書ではどれも「イヤコーボス」となっていてヘブライ語の「ヤコブ」という音にギリシア語の男性名詞の語尾「オス」をつけた形になっています。そして、そのどれもが、英語の聖書では「ジェイムズ」と訳されています。
 では、英語訳の新約聖書にはJacobという単語は出てこないのか、というと決してそうではありません。あのイスラエル十二部族の父ヤコブについて触れているときには、JamesではなくJacobと翻訳されています。たとえばマタイ福音書の冒頭にアブラハムの系図が出てきますが、そこではヤコブはJamesではなくJacobと訳されてます。
 ちなみに、ギリシア語新約聖書の中でイスラエル十二部族の父ヤコブについて記しているときには、先ほど挙げた「イヤコーボス」というギリシア語化した単語ではなく、ヘブライ語をそのまま音訳した「イヤコーブ」という形を取っています。
 つまり、英語訳の聖書の中は、ギリシア語の「イヤコーボス」と「イヤコーブ」は、それぞれJamesとJacobに訳し分けられているということです。しかし、日本語の聖書ではどちらも区別なく「ヤコブ」と翻訳されています。

 さて、英語の聖書にはそういう区別があるのですが、それにしても、何故ギリシア語の「イヤコーボス」が英語になるとJamesになってしまうのでしょうか。そもそも、Jamesという単語はどこからきているのでしょうか。

 ご存知かもしれませんが、ギリシア語で書かれた新約聖書は後に様々の国の言葉にも翻訳されます。中でもヨーロッパに長い時代影響を与えたのはラテン語に翻訳されたウルガタ聖書です。ラテン語訳の聖書では、先ほどの「イヤコーボス」はIacobusという単語になりました。これはギリシア文字をそのままラテン文字に直して語尾だけラテン語風に変えたものです。このIacobusは後の時代になってくると「b」の音が「m」の音に変わって、Iacomusと発音されるようになったのです。

 ちなみに「b」の音と「m」の音は、どちらも唇と閉じて発音することから、入れ替わってしまうことはよくあることです。
 それは漢字の「馬」という字が「バ」という読み方と「マ」という読み方があるのと同じです。あるいは漢字の「母」という字が「ボ」という読み方と「モ」という読み方があるのと同じです。

 さて、Iacomusに変化したラテン語のヤコブは、古い時代のフランス語に取り入れられるときにJamesに変化しました。そしてそれが12世紀ごろに英語の単語に入ってJamesになったのです。
 ですから、ヤコブとジェイムズでは全然違う名前のようですが、もとをたどっていけば同じヘブライ語の人名ヤァコーブに行き当たるわけです。そして、二つの単語が生まれる最初の分かれ道は、ヘブライ語からギリシア語に入ったときに起ったのです。ヘブライ語をそのまま音訳した「イヤコーブ」という形と、ギリシア語風の語尾を加えた「イヤコーボス」という形の二つが生まれたのです。
 あとは、先ほど見てきたように、それがラテン語に入ってIacomusと変化し、古いフランス語を経て英語のJamesになったわけです。

 ところで、せっかくですので、もう少しだけヤコブについてのよもやま話をしたいと思います。
 先ほどJamesという単語が古いフランス語から英語に入ったと言いましたが、現代のフランス語訳聖書ではJamesは何という単語で翻訳されているのでしょうか。実はフランス語ではジェイムズはJacquesと呼ばれています。これもまたびっくりするような違いだと思います。
 ちょっと複雑なのですが、英語のJackはフランス語のJacquesからきているように思われますが、ちょっと使い方が違うようです。英語ではJackは主にJohn…Johnというのはヨハネのことですが…Johnの愛称として使われています。

 さらにところ変わってスペイン語の聖書ではジェイムズはSantiagoになります。Santiagoというのは聖ヤコブ(Sant Yago)という意味なのですが、それが固有名詞のようにSantiagoとなりました。
 ちなみに十二使徒の一人である聖ヤコブは使徒言行録12章1節以下によればヘロデ・アグリッパ一世の迫害によって殉教しています。しかし、その遺体がスペインで発見されたという伝説があって、スペインの守護聖人として崇められるようになったそうです。
 そして、ご存知かもしれませんが、チリの首都はこのSantiagoの名前をとって、そのままサンチアゴと呼ばれています。

 雑談ついでにもう一つ、このヤコブのシンボルはなぜか帆立貝です。それでフランス語では帆立貝のことを「聖ヤコブの貝」(coquille Saint-Jacques)と呼んでいます。キリスト教美術を注意深く観ていると、胸にこの貝殻をつけた人物が描かれていることがあります。そういう人物画を見かけたら、それはヨハネの兄弟、ゼベダイの子ヤコブだと言うことが分かります。

 さて、最後にイタリア語ではどう呼ばれているのでしょうか。「蝶々夫人」のオペラで有名なプッチーニの名前はGiacomo Pucciniですが、このGiacomoというのがイタリア語のジェイムズに当る言葉です。Giacomoという名前を耳にしたら是非ヤコブの話を思い出してください。

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